第10章

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「カズマ、今年もすげぇな。」 翔太が休憩と言いながら、小上がりに腰かけて言う。 「みたいだね。」 「あれ、全部チョコなのか?」 お兄ちゃんも驚いているみたい。 「そうらしいよ。」 サラダと、だし巻き卵をつつきながら、ビールを飲む。 明日は久々のお休みだから、のんびり食べて、ビールを飲んで、カズマが後片づけを終えてから、一緒に帰ることにした。 翔太は一足先に家に帰った。 「おまたせ。」 そう言って、店に戻ってきたカズマは、もう紙袋を持っていない。 「…忘れ物?」 「ん? ハナちゃんなにか忘れた?」 「いや、私じゃなくて。」 「え?」 「カズマ、紙袋…。」 「あ、あれは大丈夫。」 「どうして?」 「どうして、って…。」 困ったような表情を向けられた。 「チョコ、なんだよね?」 「あ、うん。」 「カズマにくれたのに?」 「うん。」 「食べないの?」 「食べなくはないけど。」 「食べるの?」 「…ハナちゃん?」 自分でもなにを言いたいのかわからなくなってきた。 「糖分取りすぎは良くないから。」 ひとつだけまだ残っている紙袋を、後ろに隠す。 「ハナちゃん?」 「食べ過ぎて、鼻血とか出たら困るし。」 「出ないよ。」 「だから、あげない。」 「え?」 「太ったら困るし。」 「ハナちゃん、意地悪しないでよ。」 寂しそうに笑っている。 「はい。 でも、多かったら食べなくていいから。」 マミちゃんの言うように、特別な日にはできそうにない。 無愛想に紙袋を差し出した。 「ホント?」 「…。」 「ホントにもらっていいの?」 「いらなかったら…。」 「いる!もらう!」 そう言って、ぎゅうっと抱きしめられた。 「か、カズマ?」 「ずっとずっと、欲しかった…。」 耳元で、囁く。
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