第10章

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「ハナちゃんからのチョコ、ずっと欲しかった。」 「そ、そんな大げさな…。」 「大げさじゃないよ。 嬉しい。ありがとう。」 「ど、どういたしまして。」 「…帰ろうか。」 「うん。」 手を繋いで、店を出た。 歩きながら、やっぱり気になって聞いてしまった。 「たくさんチョコどうするの?」 「姉ちゃんが食べる。」 「そうなの?」 カズマを思って渡した子の気持ちを、どうしても考えてしまう。 …複雑な気持ちにはなるけれど。 「昔から、姉ちゃんが食べてたけど、なんか面倒だなって思ってた時期もあったんだ。 すげぇ嫌な奴でしょ。」 「うーん。」 なんとも言えない。 「勝手に気持ち押し付けて、食べてくれないだの、気持ちに答えてくれないだの、お返しくれないだの、文句まで言われて。」 「…。」 「欲しくないのに、文句言われて、すげぇ面倒だと思ってた。」 「…。」 「女の子だけじゃなくて、男からも、もらえるだけで幸せなのに、贅沢だ!とか文句言われて。 最悪だと思ってた。」 「ははは。」 客観的に考えると、全員の言い分が理解できてしまうから、笑うしかない。 「それなのに、本当に欲しい人からは、明らかに義理ってわかってる小さなチョコをもらうだけでも、むちゃくちゃ嬉しかったんだ。」 「…。」 「チョコもらう時に、家族で食べてもいいですか、って聞いてるから大丈夫。」 カズマがふわりと笑った。 「え?」 「好きな人がいるから、本命だったら受け取れません。 戴いても、家族で食べますけど、いいですか?って。」 「…律儀。」 「ははは。 美容師になってからは、そうしてるから、 家族で食べてー!って渡してくれるお客様が多くて、ありがたいなぁって思ってるよ。」 「…そうだったんた。」 「だから、オレが気持ちごと受けとるのは、ハナちゃんのチョコだけ。」
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