第10章

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「な、なに言ってんの!?」 暗くて良かった。 顔が熱い。 気にならないとか言いながら、めちゃくちゃ気にしていた自分も恥ずかしい。 「え、違うの?」 不意に足を止めるから、 「ち、違わないけど…。」 「!!」 繋いだ手を、ぐいっと引き寄せられて、そっと唇が重なった。 「すっげ、幸せだ。」 カズマが呟く。 恥ずかしくて声には出せないけれど、心で私もそう思った。 ゆっくり歩きながら、ふとあの男の子のことをまた思い出す。 「あの子は渡せたのかなぁ。」 「ん?」 「2月に入ってすぐ、人気のチョコを買いに来た可愛い子がいたの。 渡せたのかなぁ、って。」 「そうなんだ。 チョコ買いにくるお客さん、たくさんいるけど覚えてるくらい可愛かったんだ?」 「うん。 カズマくらいの年かなぁ。 スーツ姿で、ちょっと照れてて。」 「うん。」 「男なのにチョコ渡すなんて、おかしいですよね、って言うから、そんなことない!!って思わず熱くなっちゃった。」 「うんうん、って、男!?」 「うん。」 「可愛いっていうから…。」 「ホントに可愛い男の子だったの!」 「…勇気あるね。」 「うん。 って、カズマは買えちゃいそうだけど?」 「いや、勇気いるよ。 すごいと思う。」 「そうだよね。 売り場に近づくのも、男の人なら敬遠したくなるよね。」 「赤とピンクとリボンに囲まれた空間はね…。」 「あはは、確かに。」 「けど、デパートとかのバレンタインコーナーよりは、ハナちゃんの店の方が、他のお菓子買いに来ましたってつもりで、近づきやすいかも。」 「そう? でも、プレゼント用はもちろんだけど、自分用にも本当は買いたいお客様もいるかもしれないよね。」 「そうだね。」 「来年は、ちょっと考えてみようかな。」 「いいね。」 「うん。」
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