第10章

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「やっぱり、温泉まんじゅうだよね。」 「これって、なんでおいしいんだろうね。」 黒糖の生地と、こしあんが絶妙なおいしさで、小ぶりなフォルムは可愛さもあるけれど、ついポイポイと口に運んでしまう。 「私、これにしよう。」 「私も!」 温泉まんじゅうの箱を持って、レジへ向かう。 部屋へ戻ると、夕食の準備が始まっていた。 テーブルの上に、お刺身や、小さな鍋に、揚げ物や小鉢が所狭しと並ぶ。 「うわぁ、おいしそう!」 思わず飛び出した言葉に、仲居さんが微笑みながら、鍋の火をつけた。 「乾杯しよっか。」 「何回目の乾杯だろうね。」 「あはは、そうだね。」 グラスを合わせた。 珍しいものを見たとき、驚いたとき、嬉しかったとか。 あとは、おいしいものを食べたときも、カズマや翔太に話したくなる。 一緒に暮らすって、不思議。 「おいしくて、いくらでも食べられると思ったけど、さすがにお腹いっぱい。」 「うん、私も。」 ごちそうさま、と、手を合わせてから、それでもお酒は別腹と、グラスを持って窓際のイスに座る。 「涼子の話だけど…。」 「うん。」 ミユキの話に耳を傾けた。 ミユキと涼子さんは、小、中学と同じで、高校は別々になったけれど、時々会うこともあったらしい。 今もキレイだけれど、幼い頃もすごく可愛くて、商店街でも有名で、みんなに可愛がられる反面、変な人に声を掛けられることも多かった。 そのせいか、自己防衛というかのように、キッパリとした物言いをするようになった。 それでも、嫌われるどころか、すごく好かれていた。 だけどやっぱり子どもだから、自己防衛にも限界がある。 レンさんは商店街の近くに住んでいて、放課後はよく商店街にいたらしい。 これは私があとから知ったけれど、お兄ちゃんが中学を卒業する頃まで、商店街の近くのアパートに住んでいたみたい。
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