第10章

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翔太はまだ働いていたけれど、ひと足先にカズマと店を出た。 少し歩いたところで、 「カズマぁ。」 ふわりとタバコの煙が香って、 「レンさん。 なにしてんですか? 店まだ開いてますよ。」 「知ってる。」 ミユキから話を聞いたばかりなこともあって、私がドギマギしてしまう。 ポケットから取り出した、携帯用の灰皿にタバコを片づけた。 「姉ちゃんなら、まだ帰ってないですよ。 っつーか、帰るときは亮太郎も一緒なんで、別のタイミングで捕まえて下さい。」 「…了解。」 ため息まじりでそう答えると、 「妹、うちで手伝いしない?」 急にこちらに視線が向けられて、 「へ?」 間の抜けた返事をしてしまった。 「仕事忙しいんだっけ?」 「時期によりますけど…。」 「ハロウィンのイベント、結構好評だったから、次のイベント手伝ってくれないかと思って。」 「レンさん、ハナちゃんは好意で手伝ってくれただけで、これ以上は…。」 「カズマに聞いてない。 副業禁止?」 カズマには目もくれずに、まっすぐにこちらを向く。 「正式なことは、確認しないとわかりませんが、商店街のイベントに、うちの店も参加できるようであれば、店から派遣されてお手伝いをするという形で、仕事の時間外であれば、可能性はあると思います。」 「そっか、じゃあそのへん確認してもらえる?」 「わかりました。」 「もちろん、給料も出すから。 とりあえず、確認したら連絡ちょうだい。」 そう言って差し出された名刺を受け取った。 「あと、さ。」 レンさんの視線が、カズマに向く。 「亮太郎とも話したい場合は、どうすればいいわけ?」 困ったような、切ない笑みを浮かべた。 「なんで、そこまでするんですか?」 「お、カズマにそう言われるとは。」 「…。」 「そんなんわかったら、誰も苦労しねぇよ。」
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