第10章

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家に入って、お風呂にお湯を張ろうかとも思ったけれど、待ってる間に眠ってしまいそうで、シャワーを浴びて、部屋に戻る。 部屋にあるドライヤーで髪は乾かしたものの、下に降りてビールでも飲みながら、カズマと翔太の帰りを待とうと思ったのに、どうやら眠ってしまったらしい。 ぼんやり目を覚ました時に、部屋の電気を消して、ぐいっと引き寄せた布団にくるまって、もう一度目を閉じた。 なんだか、懐かしい夢を見た。 制服姿のお兄ちゃんに、私は抱っこされていて、隣にはお兄ちゃんの…友だち? 「一華、可愛いなぁ。」 「アキの娘?」 「ああ、娘。 もう、嫁でもいい。」 「はあ??」 そう言いながら、二人は顔を見合わせて笑っている。 「え…。」 頬を伝う涙で目が覚めた。 悲しいわけじゃないのに、涙が止まらなかった。 アラームよりも早く目が覚めてしまったけれど、これ以上眠る気にもならなくて、部屋を出た。 台所にもさすがに翔太の姿はないけれど、ふわりとおみそ汁の香りが漂う。 何気なくくり返されていることだって、魔法で動いているわけじゃない。 なんだって、人のチカラが使われている。 ご飯を食べて、支度をして、仕事へ向かう。 このくり返しだって、私が健康だからできること。 うん、大事にしたいな。 休憩時間にケータイを見ると、メールが届いている。 お兄ちゃんから、レンさんの伝言だった。 今日か明日の仕事のあと、か。 新しいことを始めるのは、楽しいけれど緊張する。 でもやっぱり、楽しいの方が少し多いかも。 今日大丈夫です、って返信をして休憩を終える。 「一華、ひなまつりのディスプレイの準備ってできてる?」 事務所を通りかかった時に、ミユキに声をかけられた。 「あ、まだ倉庫から出してない! ごめんなさい、すぐやります…。」
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