第10章

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「一華くん、しっかり頼むよ!」 えへんえへんと、わざと咳払いをしながら、一体なにキャラなのか…。 ついでに背中までバシバシ叩かれた。 そのまま、奥の倉庫というか物置として使っている部屋へ向かう。 「あれ?」 ドアが軽く開いている。 「誰かいます~?」 照明もついていて、声をかけてみる。 「あの、去年の資料ってどこにあるかわかりますか?」 棚の陰からひょこっと顔を出したのは、 「小宮?なにしてんの?」 「一華じゃん。」 「なんで来てんの?」 「え?聞いてない?」 ちょっぴり小柄だけど、入社当時よりスーツが似合わなくもない、彼は同期の小宮くん。 「去年の資料、こっちだよ。」 手招きして、棚に向かう。 「4月からここの事務所に移動すんの。」 「え、なんで?」 「ミユキ辞めんでしょ?」 「すぐじゃないよね?」 「いつかハッキリしないけど、辞められてバタバタしないように、会社の考えじゃない?」 「そっか。」 「っつーか、そこで納得すんなって。」 「へ?」 「おれ、店長候補とは思わないわけ?」 パチンと、指でオデコを弾かれた。 「痛んだけど。」 バシッと、肩を叩く。 「一華は婚期逃してんの?」 ニヤリと笑う。 相変わらずだなぁ。 「セクハラです~。」 「は?」 「じゃ、パワハラだ~。」 「はいはい。」 私たちが入社した頃の先輩たちは、結婚や転職やいろいろな理由で辞めていってしまった。 同期で入社した子たちも、もうほとんど退職してしまった。 だけど、男性たちはまだ何人も残っている。 工場や、工場の事務所にいるから、顔を合わせることはあまりなくなったけれど。 「今日早番?遅番?」 「遅番。」 「飯行こうぜ。」 「今日は予定あるの。」 「じゃ、明日。」 「ミユキも誘っておくね。」 「了解。」
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