第10章

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ミユキがパソコンのディスプレイから、チラリとこっちに視線を向けた。 「ちょっと、このバカにちゃんと道具使えって指導しといて。」 「ミユキ、小宮来てるなら教えてよ!」 「…ふたりとも、うるさい。」 ミユキに制止されたら、もう黙るしかないじゃない! 「一華、もういっこの箱はいいの?」 「あ、あれ何だろう。 確認する。」 「届かねぇんだろ?」 「と、届くよ!」 倉庫に戻ると、もうひとつの箱を小宮がおろしてくれた。 必要のないものかもしれないから、その場で床に置いた箱を開く。 「えええ、なんでこんなところに…。」 「うわ、懐かしい。」 今はもうなくなってしまったけど、入社当時から数年前までは、毎年春に歓迎会が催されていて、その時に使った覚えがある飾りや衣装が詰め込まれていた。 写真まで入ってるよ。 「懐かしいっていうか、見たくないっていうか…。」 小宮は爆笑している。 「ここも整理しなきゃダメそうだなぁ。」 あんまりうるさいから、眺めている写真を取り上げて、箱に戻した。 「残業しろよ。」 「だーかーらー、言い方。」 脅迫じゃないんだから。 この調子でお店仕切られたら、反感買うことが目に見えてわかる…恐ろしい…。 「あのさ、おれバカじゃないから。」 そう言って、偉そうに私の頭をポンポンと軽く叩くと、ファイルを持って倉庫を出ていった。 「どっからどう見ても、バカだっつーの。」 邪魔にならなそうなところに、一旦箱を片付けて事務所へ戻る。 小宮の姿が見当たらなくて、ホッとした。 「ほんと、仲良しだねぇ。」 「仲良くないから。」 ミユキが近づいてきて、一緒に箱の中をのぞく。 「毎年、このお雛様可愛いよね。」 箱の中の、白い小さな箱に丁寧にしまってあるお雛様をそっと取り出す。
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