第10章

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「倉庫にないと、もう残ってないかもしれないです。」 「そうだよね。」 「赤とかピンクのは、バレンタインにも派手に使っちゃったじゃないですかぁ。」 「そうだったー! お店って、忙しいかな?」 「いや、大丈夫ですよ。」 「私、材料とディスプレイに使えそうなもの、買い出しに行ってこようかな。」 「わかりました。」 上着とお財布を持って、事務所に戻る。 「ディスプレイの材料の買い出しいいですか?」 今日は店長を見かけてないな。 小宮が来るからって、逃げたわけじゃないだろうけど。 ミユキが口を開く前に、 「おれも行く。」 小宮が立ち上がった。 「なんで? サボったりしないよ?」 「バカ。 良さそうなの置いてた店あったんだよ。」 「いちいち、バカバカ言わないでよね。」 「じゃ、バカなこと言うなよ。」 反論しにくい。 小宮は上着を着ながら、また眉間にシワを寄せている。 「なに?」 「なんで財布?」 「足りなかったら、立て替えるからでしょ。」 「じゃ、いらないから置いてこい。」 どんだけ命令すんのよー!! と、思ったけれど、不毛なやりとりに発展するのも面倒で、言われた通りにすることにした。 この調子で4月からなんて、憂鬱だなぁ。 小宮と一緒に店を出た。 「いつもどこで買ってんの?」 「駅前の文具屋さん。」 「じゃ、先に付き合って。」 「はいはい。」 スタスタ歩き始めた背中を追いかける。 「ミユキって、誰と結婚したの?」 会社にも報告するから、結婚したことは知っているだろうけど。 「ずっと付き合ってた彼だよ。」 「あー、あの。」 会ったことはないとしても、彼っていう存在は知っているだろうな。 「…大丈夫?」 そう問いかけずにはいられない。 何度も、もしやと思ったことがあった。
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