第10章

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「なにが?」 思いきりニラまれた。 やっぱり聞かなきゃ良かった。 最近私の周りには、なんだかこう押しの強いというか、存在が濃いというか、そういう人に囲まれている気がしてならない。 「なんでもない。」 「あ、そ。」 そう言ってプイッと顔をそむけると、小さな雑貨やさんに急に入ってしまうから、慌てて追いかける。 早く来いよって言わんばかりの表情で、手招きされる。 やっと隣に追い付くと、 「これ、どぉ?」 さっきとは別人のような笑顔で、ガラス製のお雛様とお内裏様を指差した。 「可愛い…。」 「だろ?」 「いいね!」 「ちょっと確認してくるわ。」 お店の人と話をしに向かった。 着いていった方がいいかもしれないと思いつつ、待ってろってリアクションだったから、着いていってまた眉間にシワを寄せられるのも面倒だな。 もう、いつもあんな風なら、少しはマシなのに。 小さくため息を吐き出して、もう一度お雛様を見つめる。 ミユキが話していた、バラ売りのお雛様はもしかしたら自由なのかもしれない。 ひとりでも、ふたりでも、もしかしたらお雛様同士で手を取り合って、協力して生きていくこともあったっていいのかもしれない。 隣に当たり前のように座っている、こっちのガラスの二人は、ずっとずっと想い合って今ここにいられることが、なによりの幸せと思っているのだろうか。 それとも、これから知り合っていくのだろうか。 …私は、どの道を選ぶんだろう。 「一華、欲しいのか?」 いつの間にか戻ってきた小宮が、隣で一緒にお雛様を眺めていて、驚いた。 「あ、あとで買いにくるからいい。」 小宮がうるさいから、お財布置いてきちゃったし。 「ふーん。」 「お店の人に許可もらえた?」 「ああ。 あのさ、先に文具屋行ってて。」 「はーい。」
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