第10章

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店に戻ってからもずっと、小宮の言葉が頭から離れない。 「一華先輩、時間過ぎてますよー!」 「へ?」 後輩に声をかけられて、時計を見ると早番の時間が過ぎている。 「あ、ごめん。 これ片付けて、あがるね。」 「はぁい。」 後輩たちはすごく頼ってくれる。 だけど、いつまでも、というわけじゃない。 しっかりと仕事を覚えていく。 確かにみゆきが事務職へ移動を考えていたときに、誘われた。 今後のことも、話していたけれど、私ちゃんと考えたかな…。 そんな先のことよりも、きっと先輩たちのように、結婚して退職するんだろうなって、ぼんやり思っていた…。 「ハナさん?」 大将のお店の入り口で、思考が停止していたらしい。 「翔太…。」 「入らないの?」 発砲スチロールの箱を抱えて、笑顔を向けられて、無性に泣きたくなった。 「ごめん、やっぱり帰る。 カズマに伝えておいて?」 「ケンカでもした?」 「ちがう、ちがう。 ちょっと頭痛くなっちゃった。」 「え、送る…、」 「やだやだ、大丈夫だよ。 少しだから、念のためね?」 「ツラくなったら、いつでも連絡してよ?」 「わかったよ。 ありがとう。」 …嘘、ついた。 後悔しても、時間は戻らない。 そんなことはわかっている。 だけど…。 切り替えて、すぐに立ち上がるほど強くもない。 私はいつも、人の言葉に惑わされる…。 家に着くか着かないかのところで、 「ハナちゃん!」 カズマが走ってきた。 「大丈夫?」 少し息を切らしながら、私の肩に手を乗せる。 「ごめんね、大したことじゃないの。」 「ご飯、食べられる?」 「…あんまり食べたくないかも。」 一緒に家に入る。 「横になる?」 「…。」 ひとりになりたい。 ひとりで考えたい。 だけど…。 ひとりにはなりたくない…。
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