第10章

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カズマに甘えたくない。 でも、甘えたい。 矛盾した気持ちが、心の中をぐるぐると渦巻く。 ~♪ ケータイの着信音が鳴る。 ディスプレイには、お兄ちゃんの名前。 「!!!」 忘れてた! 慌てて通話ボタンを押す。 「一華? 仕事終わった?」 「ごめんなさい! 今からでも大丈夫ですか?」 「うんうん、大丈夫だよ。 迎え行こうか?」 「大丈夫。 すぐ向かいます。」 通話を終えて、 「カズマ、ごめん。 私お兄ちゃんのところで、レンさんと会わなきゃ!」 「ハナちゃん、体調は…?」 「ごめん、帰ったら…話す…。」 「うん、わかった。 いってらっしゃい。」 カズマに見送られて、走る。 と、いってもすぐに息があがる。 体力落ちてるなぁ。 走りたいのは山々だけど、できるだけ早く歩いて駅前まで到着したところで、 「一華!」 「お兄ちゃん?」 「そろそろかなって、待ってた。 おいで?」 「ありがとう。」 一緒に歩きながら、駅前のいくつかのビルの中の事務所に案内された。 「失礼しまーす。」 小ぢんまりとはしているものの、見渡す限りきちんと整理されていて、ちょっとイメージと違ったな…なんて。 「そこのソファ、座って。」 「ありがとう。」 お兄ちゃんはそう言うと、簡易的についたてで仕切っている向こうに回る。 「レン、一華来たよ。」 「ん~…あー、妹?」 見えないとはいえ、おそらく寝ていたんだろうと思う。 それを隠すわけでもなく、頭をガシガシかきながら、あくびまじりで近づいてきて、向かいのソファに座る。 「急に来てもらって悪いね。」 「いいえ、」 「一応、契約書見てもらおうと思って。 あ、アキ~、どこやったっけ?」 「はいはいはい。」 お兄ちゃんが、お茶をのせたトレイを持って給湯室らしき部屋から出てきた。
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