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家まで送ると言ってくれたお兄ちゃんを、途中で振りきって、ひとりで家まで歩く。
レンさんの言っていたことは、すごくわかる。
親切が当たり前になってしまうこと。
きっとそこに、悪意なんてないから、受け取った側は腑に落ちないのに飲み込んでしまう。
緩やかな、毒素のようなものなのかもしれない。
少しずつ少しずつ心に溜まって、いつか大きな不満や悪意のようなものになってしまう。
「ただいまぁ。」
玄関を開けると、家の中が明るくてホッとする。
「おかえり~。」
エプロン姿のカズマが、玄関まで出迎えてくれた。
「ご飯作ってたよ~。」
「ありがと。」
こういう優しさに、泣きそうになる。
ひとりで耐えて、悩んで、進んできたつもりだったけど、実はたくさんの優しさに支えられているのかもしれない。
だけど…。
全てを頼ってはいけない。
親切や優しさに甘えすぎると、いつか…。
「お風呂も入れるよ?
ご飯とどっち先がいい?」
「ありがとう。
お風呂入ってもいいかなぁ?」
「もちろん!」
カズマや翔太の優しさに、私は甘えすぎていないだろうか。
カズマや翔太の心の中に、少しずつ毒素が溜まってはいないだろうか。
心の中のことは、他人にはわからない。
時には、本人だって気づかないこともある。
湯船に浸かりながら、ぼんやりとした不安に包まれる。
自分の選んだ道に、後悔していないつもりだった。
だけど、こんなに簡単に揺らいでしまう。
私の自信ってなんだったんだろう。
それに、私の不安や将来まで、カズマに背負わせたくない。
カズマとは、もっと…。
並んでいたい…。
せめて、追いかけていたい。
ブクブクと、湯船に沈みかけて、ザバッと身体を起こす。
考えなきゃ、
…だけど。
また間違えたら…どうする?
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