第10章

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自分の気持ちに余裕のあるときには、気にならなかったことが、だんだん気になるのは、前よりももっと好きになってしまったからなのかもしれない。 「ご飯食べよっか?」 「その前に、髪の毛。」 「えええ?」 そこは譲ってくれないらしい。 そっと身体を離したあとに、優しく手を引かれてソファに座らされる。 抵抗する気持ちなんて、すっかりなくなってしまった。 「浄化の能力でも持ってんの?」 「え?なに? なんのゲーム?」 「…なんでもない。」 カズマは笑いながら、ドライヤーを持ってくると、髪の毛を乾かしてくれた。 ご飯を食べながら、 「今日一緒にいた人って、会社の人だよね? 変なあいさつして、ごめんね。」 「ううん、失礼でごめんね。 小宮って言って、同期なんだけど、4月からうちのお店に移動になるみたい。」 「仲良さそうだったね?」 「良くない、良くない。 むしろ、仲悪いの。」 「えええ? そうは見えなかったから、ちょっとやきもち。」 「いやいやいや。 絶対、ないから。」 だって、小宮が好きなのはミユキだから。 「店長さんとか?」 「いずれは狙ってるのかもしれないけど、とりあえず事務員だって。 ミユキが辞めるかもしれないから、その欠員補充…なのかなぁ。」 よく考えてみると、会社の内部事情なんて全然知らない。 そういうのも、小宮に言わせると、『甘い』んだろうなぁ。 「ハナちゃん、事務職に移動はしないの?」 「…ははは。」 この話題は墓穴ほったかもしれない。 「ん?」 カズマが、キョトンとしてこっちを見る。 「いつ辞めるかもしれない私は、事務職に移動するには、少し遅かったみたい。」 「え?」 「現実は別として、結婚して辞めるかもしれない年齢だから、もう少し年下の子を育てたいみたい。」 「…。」 自虐的になげやりに聞こえないように話したいのに。
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