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自分の気持ちに余裕のあるときには、気にならなかったことが、だんだん気になるのは、前よりももっと好きになってしまったからなのかもしれない。
「ご飯食べよっか?」
「その前に、髪の毛。」
「えええ?」
そこは譲ってくれないらしい。
そっと身体を離したあとに、優しく手を引かれてソファに座らされる。
抵抗する気持ちなんて、すっかりなくなってしまった。
「浄化の能力でも持ってんの?」
「え?なに?
なんのゲーム?」
「…なんでもない。」
カズマは笑いながら、ドライヤーを持ってくると、髪の毛を乾かしてくれた。
ご飯を食べながら、
「今日一緒にいた人って、会社の人だよね?
変なあいさつして、ごめんね。」
「ううん、失礼でごめんね。
小宮って言って、同期なんだけど、4月からうちのお店に移動になるみたい。」
「仲良さそうだったね?」
「良くない、良くない。
むしろ、仲悪いの。」
「えええ?
そうは見えなかったから、ちょっとやきもち。」
「いやいやいや。
絶対、ないから。」
だって、小宮が好きなのはミユキだから。
「店長さんとか?」
「いずれは狙ってるのかもしれないけど、とりあえず事務員だって。
ミユキが辞めるかもしれないから、その欠員補充…なのかなぁ。」
よく考えてみると、会社の内部事情なんて全然知らない。
そういうのも、小宮に言わせると、『甘い』んだろうなぁ。
「ハナちゃん、事務職に移動はしないの?」
「…ははは。」
この話題は墓穴ほったかもしれない。
「ん?」
カズマが、キョトンとしてこっちを見る。
「いつ辞めるかもしれない私は、事務職に移動するには、少し遅かったみたい。」
「え?」
「現実は別として、結婚して辞めるかもしれない年齢だから、もう少し年下の子を育てたいみたい。」
「…。」
自虐的になげやりに聞こえないように話したいのに。
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