第10章

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どうがんばっても、そうとしか聞こえなさそうで心苦しくなる。 私がこんな風に言ったら、結婚を焦らせてると思われそうで怖い。 「小宮には、散々ダメ出しされたよ。 ミユキと一緒に早く事務職にうつれば良かったとか…。 先のことは考えてるのか、とか。」 「…。」 「やっぱりビール飲もうかな。」 無言にもだけど、結局話してしまった自分の情けなさにもむなしくなって、ビールを取りに立ち上がる。 「カズマも飲む?」 冷蔵庫の前で聞くけれど、返事はない。 とりあえず缶を2つ持って戻ると、カズマがこっちを向いた。 「ハナちゃんは、どう思うの?」 「…わかんない。」 カズマに無理矢理ビールを渡して、自分の分をプシュっと開けながら座る。 「考えてたはずなんだけどな。」 状況はどんどん変わっていたのに、どこかで思考を停止してしまっていたのかな。 ずっと今が続けばいい、なんてみんな望んでいるけれど、叶わないからこそ望むのかもしれない。 「ただいま~。」 玄関から翔太の声が聞こえる。 「あ、ハナさん帰ってた。」 「おかえり。ごめんね。」 「ううん、あ、俺もビールもらおうかな。」 「もちろん。」 冷蔵庫へ取りに行こうとしたところを、制止されて翔太は上着を脱ぎながら台所へむかった。 …嘘ついたってバレてるよね。 ごまかして、自分を守るためにつく嘘…なんて。 情けないな。 翔太は向かい側に座って、ビールを開けた。 「オレはハナちゃんの接客してるところ、楽しそうですきだけどな。」 カズマがポツリと呟いた。 「会社の事情ってのもあるのかもしれないけど。 店頭に若い子が並んでいるのがいいって言う人もいるのかもしれないけど、それって特に重要じゃないと思う。」 「…。」 「年齢とか関係なく、知識や経験に助けられることもあるから。」
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