第10章

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翔太がビールの缶をそっとテーブルに置く。 「経営としては、先を見越すことも大切なのかもしれないけど、人としてはどうなのか、って。」 カズマが慎重に探るように、でもしっかりと言葉を繋ぐ。 「その仕事がすきで、働きたいって思う人がどうして働いちゃいけないのかなって。」 ポタリと涙が落ちた。 「わー!! ハナちゃん、ごめん!」 カズマが服の袖で涙をぐいぐい拭う。 翔太の手がそっと伸びてきて、頭を撫でてくれて、カズマがパシッとその手を振り払う。 「ごめん、あのね、もっと器用に生きられたらって思うんだけど。 それでも、私は私の道を考えて選んできたはずなんだけど、もしかして間違えてたのかもしれないと思ったら、やっぱり少し不安になって…。」 「ハナちゃん。」 「ごめんね。」 「謝らないの! っつーか、翔太気ぃきかせろよ。 邪魔だよ。」 「全然気づかなかった。」 翔太はそう言って笑うけれど、その場から動く気はないみたい。 カズマにギュッと抱きしめられた。 「ごめんね。 また考えるから。 これからどうしたいのか、どうすればいいのか。」 「うん、ゆっくり考えてみたらいいよ。」 「ありがとう。」 「バカップル、そろそろ終わりにしてくんない?」 「だーかーら、お前が気を利かせればいいだけだろ?」 「俺、気ぃ利かないからさ。」 「…あはははは!」 不安が消えるわけじゃないけれど、帰る場所があって、話を聞いてくれる人がいるって、幸せなことだなぁ。 間違えないように慎重に選んできたつもりだったのに。 …ううん、そう思ってはいるけれど、たくさんのことを間違えていたかもしれない。 だけど…。 今、こうしていられる決断は間違えていなかったって思う。 「そういえば、ハナちゃんほんとにレンさんの仕事手伝うの?」 「今日少し話してきたよ。」
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