第10章

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「だって、一華先輩って誰にでも親切じゃないですかぁ。」 「そんなことないよ。」 「あの…よくクレームつけるお客様にも、いつも笑顔だし…。」 困ったように、顔を少し伏せながら後輩が言う。 「クレーム?」 「スポンジが少し固いとか、クリームがズレてるとか、クッキー焼けすぎてるって言うかた…。」 「あ…、私もちょっと苦手なんですよね。 いつも買う商品が違うのに、いつものやつ!っておっしゃることがあって…。」 どのお客様かは、大体見当がつく。 お店にお客様がいないとはいえ、本当は店頭でそんな話をしていちゃいけないのだけれど…。 「いろんな方がいらっしゃるよね。」 「仕事ってわかってるんですけど、苦手だなぁって思っちゃって…。」 「急いで用事を済ませたい方もいるし、本当はおしゃべりしたい方もいるよね。 口調はキツいこともあるけど、間違ってもないこともあるんだよね。」 「そうなんですか?」 「うん。 スポンジがいつもより固いって言われて、確認したら本当にうちのミスだったことがあったの。」 「そうなんですかぁ!?」 「知らなかった~!」 「うちの商品を気に入ってくださってるのはわかるから…。」 「それはちょっと、今後気をつけます。」 「なんとなく聞き流してたことがあるので、ちゃんとお話してみますね。」 「うんうん。」 後輩たちが思う気持ちもわかる。 理不尽なことを言われて、責められて、裏で泣いたことは何度もある。 悔しくて、悲しくて、虚しくて…。 だけど、それでも優しいお客様もたくさんいらっしゃって、やっぱりお店でお客様のお話を聞きながら、応対することが好きで…。 今のままでいいと思っていなかったわけじゃない。 だけど、変わりたくなんてないのに…。 「…一華先輩?」 「ん?」 「…なにかあったんですか?」
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