514人が本棚に入れています
本棚に追加
/670ページ
「だって、一華先輩って誰にでも親切じゃないですかぁ。」
「そんなことないよ。」
「あの…よくクレームつけるお客様にも、いつも笑顔だし…。」
困ったように、顔を少し伏せながら後輩が言う。
「クレーム?」
「スポンジが少し固いとか、クリームがズレてるとか、クッキー焼けすぎてるって言うかた…。」
「あ…、私もちょっと苦手なんですよね。
いつも買う商品が違うのに、いつものやつ!っておっしゃることがあって…。」
どのお客様かは、大体見当がつく。
お店にお客様がいないとはいえ、本当は店頭でそんな話をしていちゃいけないのだけれど…。
「いろんな方がいらっしゃるよね。」
「仕事ってわかってるんですけど、苦手だなぁって思っちゃって…。」
「急いで用事を済ませたい方もいるし、本当はおしゃべりしたい方もいるよね。
口調はキツいこともあるけど、間違ってもないこともあるんだよね。」
「そうなんですか?」
「うん。
スポンジがいつもより固いって言われて、確認したら本当にうちのミスだったことがあったの。」
「そうなんですかぁ!?」
「知らなかった~!」
「うちの商品を気に入ってくださってるのはわかるから…。」
「それはちょっと、今後気をつけます。」
「なんとなく聞き流してたことがあるので、ちゃんとお話してみますね。」
「うんうん。」
後輩たちが思う気持ちもわかる。
理不尽なことを言われて、責められて、裏で泣いたことは何度もある。
悔しくて、悲しくて、虚しくて…。
だけど、それでも優しいお客様もたくさんいらっしゃって、やっぱりお店でお客様のお話を聞きながら、応対することが好きで…。
今のままでいいと思っていなかったわけじゃない。
だけど、変わりたくなんてないのに…。
「…一華先輩?」
「ん?」
「…なにかあったんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!