第10章

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「なにしてんだよ。」 「別に。」 「ここの店でいい?」 「いいよ。」 どこでもいいと言いながら、あとで文句を言うのは嫌だ。 とはいえ、駅前の通りのオシャレなお店。 ドアを開けると、カランコロンと優しいベルの音が響く。 「いらっしゃいませ。」 「あとから、もうひとり来るのですが…。」 「かしこまりました。 ご案内致します。」 白のワイシャツに、黒のエプロンが似合う女性の店員さんに案内される。 ついたてで囲まれた、個室のような空間で、明るすぎないけど、暗くもなくて、居心地が良さそう。 「飲み物だけでも頼んどくか。」 スッとメニューを渡された。 「日本酒たくさんある…。」 「だろ?」 「すごいね。」 そう言ったところで、ふと小宮を見ると、 「いつもそのくらい素直だったら、少しは可愛げあんのにな。」 頬杖をついて、ニヤリと口の端を上げている。 「それはどうも。」 「で?なににすんの? ビールでいいの?」 「ミユキが来てからの方が…?」 「飲んでなかったら、それはそれで気使わせるだろ。」 店員さんを呼んで、注文をしてくれた。 「正直、一華が辞めないとは思ってなかった。」 「失礼だよね。」 「1年とか2年で、結婚して退職した人いただろ? 何人か。」 「うん。」 「そうなるのかな、って思ってた。」 「えええっと、私が婚期を逃してるとか、そういう話?」 「いや、そうじゃないって。 この街が好きだから、この街で働きたい~…なんて、ある意味他の店とか職種でもいいって言ってるようなもんだろ?」 「…確かに。」 そう言われると、志望動機としては、今さらながらに微妙だ。 「イベントで盛り上がる時期だって、案外忙しいから、時間取れないだろうし。」 「そうだね。」 クリスマスも、バレンタインも、手作りでなにか…なんて。
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