第10章

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ミユキがそれを言ってしまうと、どうしようもなく切なくなってしまった。 ぎゅっと、心を掴まれたように苦しくなる。 小宮は確かに偏屈だけど、なんでそうなのかを考えると、憎みきれないというか…。 「と、とりあえず飲もうよ?」 グラスを持つ。 「そうだね。」 ミユキも笑う。 小宮は困ったような切ないような表情を一瞬見せたけれど、口の端をあげて笑った。 食べて、飲んで、お店の外で、ミユキと一緒に小宮に頭を下げる。 「ごちそうさまでした。」 「おいしかったです。」 「おう。」 「私こっちだから、小宮さぁ一華を送ってくれない?」 「わ、私、大丈夫だよ?」 「ダメダメ。 少年に怒られるでしょ? …って、小宮と二人でも怒るか?」 「いや、それはないと思うけど…。」 「じゃ、お願いね。 またね。」 小宮の返事なんて聞く気がないらしく、手をヒラヒラ振りながら行ってしまった。 チラリと横を見ると、ため息混じりで小宮もこっちを見てる。 「…どっち?」 「えええっと、」 「…アイツ、いつも無茶言うけど、聞いちゃうんだよ。」 営業スマイルとも、口の端をあげるのとも違う、ふわりと優しい笑顔を見せた。 小宮に特別な感情なんて、今までもこれからもないけれど、ドキリとしてしまった。 だけど、それは見間違いとも思えるくらいの一瞬で、 「酔ってたってことで、忘れろよ。」 ギロリとニラまれた。 「は、はい。」 「色々言ったけどさ、受け身じゃなくてもっと主張すれば、聞いてもらえることもあるかもしれないからな?」 「…へ?」 「辞めたくないなら、上に掛け合うってもの、アリなんだから。」 「…そっか。」 「ミユキやおれがどうこうしたところで、一華はまだなにもしれないだろ?」 「うん。」 「やってみりゃいいじゃん?」
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