第10章

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シャワーを終えて、そのまま脱衣室で髪の毛を乾かす。 お客様と会話をするときも、お話をよく聞いて、答えるってことが、当たり前のようでなかなか難しいこともある。 自分が思ったこととはいっても、見当違いに思われる答えだったら、どうしようと不安になることもある。 友だちや家族との会話と違って、求められていることに答えるって、いつまで経っても慣れないなぁ。 会話って自由のようで、自由じゃないこともある。 髪を乾かし終えて、ドライヤーのコードをまとめて、洗濯物もまとめて脱衣室を出る。 台所の照明は消えていて、居間に翔太の頭が見えた。 「飲んでるの?」 後ろからのぞきこむと、スヤスヤ寝息が聞こえる。 「風邪ひいちゃうよ。」 部屋まで運んであげられないから、毛布を取りに階段をのぼる。 持っていた洗濯物やタオルを部屋に置いて、翔太の部屋の押し入れから、毛布を引っ張り出す。 毛布を抱えて階段を降りていると、玄関が開く音が聞こえた、 「うわ、毛布が浮いてる…。」 「おかえり。」 「翔太寝てんの?」 「うん。」 カズマは毛布をひょいっと奪うと、居間に運んでくれた。 そのまま任せると、乱暴に毛布を掛けて翔太を起こしてしまいそうだから、ぐいぐい引っ張って返してもらってから、そっとそっと掛けた。 「ご飯食べた?」 「うん、ミユキと小宮と食べてきた。」 「そっか。」 「カズマは?」 「食べてきた。 シャワー行ってくる。」 「うん。」 カズマを背中を見送りながら、冷蔵庫を開けてビールを取り出す。 …カズマはどうなのかな。 美容師さんは、お客様とコミュニケーションを取るのは、すごく重要だよな。 居酒屋だって、お話をしたくて来るお客様もたくさんいるだろう。 私の方が、年上だから経験も多い…なんて、少し思い上がっていたかもしれない。
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