第10章

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「はぁ…。」 思わずため息がもれる。 「…うわ、寝てた。」 翔太が身体を起こす。 「部屋で寝なよ~。」 「…悩んでる?」 寝ぼけたような顔をしながら、テーブルに頬杖をつきながら、翔太は微笑んでいる。 寝起きもずいぶん可愛いなぁ。 なのに、きっとため息を聞かれてしまった。 「悩むよ~。 人生なんて、悩みの連続だよ。」 「人生語っちゃってるよ。」 「語るほど、人生経験ないけどね。」 「そんなことないと思うけど。」 「もう、わからなすぎて。」 「考えすぎなんじゃない?」 「考えないわけには…。」 考えてるつもりだったのに、実は全然考えられてなかった結果が今の状況なんだから。 「考えなくていいってこともないと思うけど、考えたからその通りになるってわけでもないじゃん?」 「…。」 「ハナさん、最近なんかずっと緊張してるっていうか、無理してるっていうか…。」 「う。」 「カズマはなんか遠慮してるし?」 「遠慮?」 「うん。わかんないけど、そんな感じがしてた。」 「…。」 「そんなに気負わなくても大丈夫だよ?」 「気負ってなんて…。」 ない、とは言い切れなくて、言葉につまる。 期待されたいと願うけれど、期待はズシリズシリと重みを増してくる。 もがけば、もがくほどに、絡み付いてまとわりついて、逃れられなくなる。 だけどそこには、悪意なんてない。 いつの間にか逃げ出そうとしている自分が、情けなくて弱い人間のように思えてくる。 「商店街のこと? それとも、仕事のこと?」 「…両方?」 レンさんに声をかけてもらえて、嬉しかった。 だけど、私になにができるかなんて、全くわからない。 むしろ、今の状況で私にできることなんて、なにもないような気にすらなる。 仕事だって、危ういことにすら気づいていなかったんだから。
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