第10章

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大切だからこそ、言えないこともある。 それを「冷たい」と切り捨ててしまうのは、ちょっと残酷だ。 生活を共にしている家族なら、また状況も違ってくるのかもしれないけれど、お互いに寄りかかり過ぎないのも、友だちとして長くつき合っていける理由になるのかな。 自分の進んできた道が、間違えていないなんて自信はない。 だけど、自信を持たないから、自分のことを信じられないのかもしれない。 信じられないから、進めなくなる。 間違いもひっくるめて、自分だから…といえるほど、まだまだ強くはないのだけど。 「ハナちゃん、今日一緒に寝ようか?」 「は?」 「…バカップルにつき合ってらんないから、俺寝るわ。」 翔太が呆れた顔をしながら伸びをして、かばっと毛布を抱えて立ち上がった。 「おやすみ。」 ふっと笑いながら言われて、 「おやすみ。」 と、答える。 カズマは相変わらず、シッシっと言わんばかりに、手をプルプル振っている。 ビールをごくごく飲む。 「ねぇねぇ、ビールって不思議じゃない?」 「ん~?」 カズマが微笑みながらこっちに視線を向ける。 「楽しいときに飲むと、めちゃくちゃおいしいって思うのに、心が苦しかったり、後ろめたいときとかって、妙に苦く感じない?」 「…確かに。」 「元々、自分に自信たっぷりで生きてきたわけじゃないんた。」 「うん。」 「それでも、それなりに、経験は積んできたとは思ってるけど。」 「うん。」 「それでも、まだまだだなぁって思い知らされてる。」 「…ツラい?」 「うー、ん。」 苦しいし、空しいとも思う。 ツラくないわけじゃないけど…。 「?」 「…悔しい。」 ポロリと口からこぼれるように落ちた言葉に、自分自身でも驚いてしまった。 「え?」 聞いていたカズマよりも早く、自分に疑問を投げ掛けてしまった。
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