第10章

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「え?って、」 カズマは変わらず、穏やかに笑っている。 「…そっか。」 私、悔しかったんだ…。 毎日平和であればいい。 心は揺れないほうがいい。 心が揺れると、苦しくて、ツラくなるから。 キツそうなことは、早めに察知できれば回避できる。 そうやって、先回りして穏やかに暮らすことが、私にとって幸せだと信じていた。 それも、嘘ではない。 だけど、その陰で感じている気持ちも、私のものだ。 自信があるとか、ないとか。 そんなのはどっちにしたって、私の決断は私のもの。 だから、それが間違いだったと思わされるようなことは、やっぱり悔しい! 怒りをやり過ごした気でいても、そのくすぶった思いは、心にどんどん溜まってしまう。 怒りや悔しさも、マイナスの存在ばかりではないのかもしれない。 怒りや悔しさが、現状を打開するエネルギーにもなりうるのかもしれない。 カズマがスススっと近づいてきたかと思うと、私の後ろにまわりこんで、ぎゅっと抱きしめられた。 「ちょ、っと?」 首のあたりに顔をうずめられて、ふわふわの髪の毛も、どっちもくすぐったい。 それにこの甘い香りは、シャンプー? …違うな。 だけど、お風呂上がりに香水なんてつけないだろうから。 …カズマの香り。 「ハナちゃん、ツラいならやめちゃっていいよって言うところだった。」 耳元に声が優しく響く。 「え?」 「贅沢はさせてあげられないかもしれないけど、ハナちゃんのこと養えるよ?オレ。」 「ふふふ。」 胸の前のカズマの腕に、そっと手を添える。 「ずっとずっと、苦しそうで、見てらんなくて。 そこまで苦しいなら、やめちゃえよって言いたくなった。」 「…今言ってるけどね?」 「でも、ハナちゃんは罪悪感とか、オレが言ったのにオレに申し訳なく思ったりするだろうなって思ったり。」
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