第10章

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「…うん。」 「ハナちゃんに寄りかかられたって、乗っかられたって、全然大丈夫だから。 ってか、むしろ、オレがそうして欲しいって思ってても、ハナちゃんは嫌だと思うかもしれないし。」 「ははは。」 「頼られてないのかな、って。 頼れるほどの存在じゃないのかな、なんて八つ当たりみたいに思うこともあったよ。」 「八つ当たり?」 「うん。 頼られないのって、自分の力が足りないだけなのに、頼ってくれない相手のせいだと思いそうになるじゃん? だから、八つ当たり。」 「ふふふ。」 カズマらしいなぁ。 「でも、ハナちゃんにはハナちゃんの考えや思いがあるんだよね。 だから、待とうって思ったのに。」 「うん。」 「今まで散々待って待って、待ち倒してもいいって思ってたのに、いつの間にか待てなくもなってて…。」 「うん。」 カズマの腕に力がこもる。 背中が温かくて、優しさに包まれている安心感に、涙があふれる。 こんなに優しくされていたのに、大変なのも傷ついているのも、自分だけって思っていたかもしれない。 どうして気づかなかったんだろう。 「結婚って、相手の為にするのかと思ってた。」 「うん?」 「安定とか、安心とか、そういうのを相手に与えるためなのかと思ってた。」 「…違うの?」 「違うのかもしれない。」 「?」 「オレが安心したい。 ハナちゃんを一番に支えられるのは、オレっていう証が欲しいって思った。」 「…。」 「オレの為に、結婚してよ。 なんて、勝手なことをずっと思ってる。」 自信なさげに呟くように、カズマが吐き出す。 ポタリと涙が落ちた。 涙の滴が、カズマの手の甲に乗る。 ふと、背中からぬくもりが離れる。 だけど、次の瞬間には風にさらわれるように、強く強く抱きしめられていた。 目を伏せると、また涙が落ちた。
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