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「結婚が、ゴールなんて思えない。」
カズマの声が優しく響く。
「ゴールじゃなくて、そこからがスタートなんじゃないかって思う。
だから、今はまだスタートラインにすら立ててないんじゃないかって。」
「…。」
「だから…。」
「…。」
「だから…。」
掠れるような、不安そうな、それでいて心強く思える声で、カズマが言う。
「ハナちゃん、結婚してください。」
凝ったサプライズの演出もなければ、日常から離れた特別な場所でもない。
目の前で、バラの花束を差し出されて、ひざまづいた彼が、パカッと小さな箱を開けて、キラキラ光る指輪を用意しているわけでもない。
毎日をくり返して、毎日を重ねている、この場所で、これから先もこの毎日を重ねていける言葉をもらえたことだけで、こんなに嬉しいものだということを、教えてもらえたのがカズマで嬉しい。
両方の肩を、カズマの大きな手のひらに包まれるように、そっと身体を離す。
涙で揺らぐ視界だけど、カズマの顔はハッキリと見えていて、
「ハナちゃん、結婚してください。」
「…私でいいの?」
ドラマチックな演出に憧れたことがないわけじゃないけど、演出なんてなくても、その言葉だけで充分ドラマチックなんだと思う。
なのに。
私が思いつく言葉なんて、ちっぽけで。
「ハナちゃんがいいの。
ずっと、今までもこれからも。」
「…ありがとう。」
カズマが、ふわりと笑う。
涙のせいで、カズマがキラキラして見えちゃって。
私も充分、恋してた。
そっと触れた唇は、教会でもないのに永遠を誓うみたいに思えた。
初めてキス、したときよりも、ずっと緊張して、恥ずかしくて、嬉しい。
「ふふふ。」
顔を伏せて、笑ってしまった。
「…家で、ごめん…。」
「ううん。
家で、嬉しい。」
「へ?」
「ふふふ。」
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