第10章

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「結婚が、ゴールなんて思えない。」 カズマの声が優しく響く。 「ゴールじゃなくて、そこからがスタートなんじゃないかって思う。 だから、今はまだスタートラインにすら立ててないんじゃないかって。」 「…。」 「だから…。」 「…。」 「だから…。」 掠れるような、不安そうな、それでいて心強く思える声で、カズマが言う。 「ハナちゃん、結婚してください。」 凝ったサプライズの演出もなければ、日常から離れた特別な場所でもない。 目の前で、バラの花束を差し出されて、ひざまづいた彼が、パカッと小さな箱を開けて、キラキラ光る指輪を用意しているわけでもない。 毎日をくり返して、毎日を重ねている、この場所で、これから先もこの毎日を重ねていける言葉をもらえたことだけで、こんなに嬉しいものだということを、教えてもらえたのがカズマで嬉しい。 両方の肩を、カズマの大きな手のひらに包まれるように、そっと身体を離す。 涙で揺らぐ視界だけど、カズマの顔はハッキリと見えていて、 「ハナちゃん、結婚してください。」 「…私でいいの?」 ドラマチックな演出に憧れたことがないわけじゃないけど、演出なんてなくても、その言葉だけで充分ドラマチックなんだと思う。 なのに。 私が思いつく言葉なんて、ちっぽけで。 「ハナちゃんがいいの。 ずっと、今までもこれからも。」 「…ありがとう。」 カズマが、ふわりと笑う。 涙のせいで、カズマがキラキラして見えちゃって。 私も充分、恋してた。 そっと触れた唇は、教会でもないのに永遠を誓うみたいに思えた。 初めてキス、したときよりも、ずっと緊張して、恥ずかしくて、嬉しい。 「ふふふ。」 顔を伏せて、笑ってしまった。 「…家で、ごめん…。」 「ううん。 家で、嬉しい。」 「へ?」 「ふふふ。」
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