第10章

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「…指輪とか、用意してなくて、ごめん。」 急にどんどんカズマが沈んでいくから、焦ってしまう。 「カタチにばかり捕らわれないで、私たちには私たちのカタチがあるんじゃないかな?」 「…うん?」 「指輪なくったって、カズマの気持ちがすごくすごく嬉しいよ?」 「ハナちゃん。」 「それに、指輪が必要だったら、一緒に選びにいけばいいじゃない?」 「ハナちゃん。」 「一緒に出掛けて、一緒に選んで、楽しい予定がひとつ増えるよ。」 「ハナちゃん。」 「ふふふ、そんなに呼ばないでよ?」 「なんで、もう、そんなに…。」 ぐいっと、抱きよせられて、耳元で、 「かわいすぎる…。」 低くて優しい声に、背中がゾクリと反応する。 そっとカズマの背中に、手を回す。 正解、なんてわからない。 それでも、今守りたいと思うものを、大切にしたい。 もしかしたら、間違いなんて本当は存在していないのかもしれない。 周りという、不確かな存在にそう思わされてしまうだけで、自分自身に問うべきことなのかも。 どの道を選んでも、どんなスピードで進んでも、不安は振り切れないし、安心ってやつを掴みたくて手を伸ばしても、追いかけても追いかけても、永遠に掴めることはないのかもしれない。 追うほどに、逃げていくのに。 ふと足を止めてみると、まるでずっとそこにあったかのように、寄り添ってあるものなのかもしれない。 「カズマ。」 「ん?」 「ありがとう。」 「うん。」 私を見つけてくれて、手を伸ばしてくれて。 優しく包んでくれて。 ありがとう。 そう伝えたかったのに、のどの奥が重たくて痛くて、言葉にならない。 代わりに、どんどん涙が溢れて、流れて、止まらなくて。 カズマが優しく背中を撫でてくれた。 「ハナちゃん、ありがと。」 代わりに、ぎゅっと力を込めた。
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