第11章

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「私煮たのがいいなぁ。 小宮はどうする?」 「焼き魚食べたい。」 「翔太、お願いね。 あと、お刺身も食べたいなぁ。」 「わかったよ。」 翔太の後ろ姿を見ながら、 「乾杯?」 「乾杯。」 素っ気なくジョッキをカチンと合わせて、グイッと飲む。 「あー、おいしい!」 もう苦くない。 働いた後のビールは、最高!って感じだ。 お通しは、大根と鶏肉の煮物で、ホクホクでおいしい。 「大将、おいしい!」 「ありがとう。」 カウンターの中から、お礼を言われる。 同じ材料を使っても、きっと同じ味にはならない。 当たり前って、当たり前かもしれないけど、それが不思議だなって私は思う。 だからきっと人生で同じ出来事が起こったとしても、受けとる人によって、その時の気持ちや状況で、全然違った結果になるんだ。 「お待たせしました。」 翔太がお刺身を運んできてくれた。 サラダもどうぞ、と器を置く。 「ありがとう。」 小宮の方に取り皿を渡す。 「胃袋つかまれたのか?」 「あはは、そうかもしれない。」 「一華だから、いいんじゃね?」 「あ、そ。 もうちょっとギャップ埋めてよね。」 「は?」 「後輩たちに、小宮さんって優しいですよね、って言われるたびに、寒気がするんだけど。」 「本当のことだろ?」 「後輩たちには本当かもしれないけど、私には共感できない。」 「じゃ、否定すれば?」 「それも面倒なの。」 「なんで?」 「なんか変に誤解されそうというか、そんな気持ち悪いことになったら、耐えられない…。」 なんとなく、淡い好意を寄せている子がいるように思えてならない。 そんな中で、小宮は実は意地悪だ、なんて言ったところで、もし違った意味に受け取られてしまったら! 仲良しアピールだとか、彼がいるのにとか、そういうのはもう本当にいやだから。
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