第11章

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「うん。」 「お店のケーキだって、クッキーだって、私には作れない。」 「ああ。」 「だけど、おいしい、ありがとう、って言われると、嬉しい。 作ってる人にも、伝えたいって思う。」 「ん。」 「私がしたい仕事って、それなんだなって思った。」 「…。」 「今までも、これからも。」 「そ、っか。」 「だからもし、会社の上の、って言われる人たちに、邪魔だと思われたり、辞めろって言われるかもしれないけど、それならそれで受け入れるよ。」 「…。」 「そうなるとしたら、お店にとって私は必要ないってことだから。 そうなったら、私を必要としてくれるお店を探すよ。」 「…。」 「って、簡単にはそうなるつもりはないから、できることはやるけどね!」 「…わかった。」 もしかしたら、またこの決断に振り回されることがあるのかもしれない。 だけど、どの道を選んだって、正解なんてならないなら、せめて今この瞬間、後悔しないと思える道を選びたい。 「事務作業はもちろん手伝うけど、本業は販売員ってことで、よろしくお願いします。」 「了解しました。」 「だーかーらー、もうちょっと口角あげらんないわけ!?」 横から片方のほっぺたを、ぐいっと掴んでやる。 「やーめーろ。」 「じゃあ、もう少しニコニコしなさいよ!」 「…一華が言ったんだろ?」 呆れたように、私の手を払いながら言う。 「へ?」 「ニヤニヤしてないで、しっかりみんなをまとめなさいよ!って。」 「…!?」 「まだ同期が何人もいて、飲み会してた頃。」 「…。」 「本社に配属された奴らで、ああだこうだグチってたら、ビールのジョッキをテーブルにがんっガンッって置いて、急に胸ぐら掴まれたっけ。」 「!!!」 酔っていたせいで、記憶はぼんやりしているけれど、心当たりはある。 背筋がヒヤリとする。
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