第11章

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「ヘラヘラここでグチってるヒマがあるなら、見返すくらいの仕事しろ! あんたたちだけが、ツラいわけじゃないから! って、ものすごい剣幕で。」 「…そんなことも、あったね…。」 思い出すのも恥ずかしい。 今はいろいろ受け入れられるようになってきたけれど、その頃は少し滅入ることが多かった。 できる仕事は増えてきたものの、対応しきれないこともあるけれど、後輩の指導もしなきゃならなくて、精一杯になっていた。 そんな時に限って、とは言えないけれど、中年のお客様に、からかいのような意地悪を受けた。 忘れたつもりになっていたけれど、今でもしっかり覚えている。 そのお客様は、一見とても紳士的で穏やかそうな笑みを浮かべていた。 「お姉さんのオススメで、ケーキ選んでよ?」 そう声をかけられて、一番人気の商品や、季節限定の商品、あとは定番で人気のある商品を案内した。 「ふーん、なんか普通だね。 もっと良さそうなの、ないの?」 と、おっしゃるから、他の商品の説明を始めると、 「あー、でもおれ分かんないから、お姉さんが選んでよ?」 そう言われて、選んだものをお見せすると、 「ふーん、こういうの選ぶんだ? まあいいけど。 人に渡すから、包んでよ? おれ分かんないから、いいようにして?」 箱に詰めて、渡そうとすると、 「これでいいって思ってんの?」 鼻で笑うようにそう言われて、不安で胸が苦しくなった。 「お姉さんはこれでいいって思ってるんだよね? ふーん、それならいいけど。」 別のものに取り替えますか、と伺っても、 「おれ分かんないから、いいようにしてって。」 と、くり返すばかりで、どうしていいのかわからなくなったけれど、泣くのだけは嫌だと、必死で涙を堪えた。 「どうなさいました? ご注文お伺い致します。」 店長が、接客を代わってくれた。
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