第11章

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「…うーん。」 「無理めな仕事は、とりあえず一華に言えばいいんじゃね?って言ってる奴もいたんだよね。」 「…へー。」 そう言われると、心当たりがないわけじゃないのが悲しい。 「文句は言われないし、なんとかしてくれるし?」 「…便利に使われてたんだね。」 「だけど、あの時に気づいたっつーか。 言わないからって、なにも思ってないわけじゃないんだ、って。」 「…矛盾してんじゃん。」 「え?」 「 思うことは伝えないと、思ってないのと同じになるみたいで、嫌だから。 って言ってた。」 「だから、そう思うんだろ?」 「はい?」 「言わないから、なにも思ってないと思う。 だから、伝えないと、わかってもらえないんだって。」 「…。」 「あと、あの時は無茶苦茶迫力あったから、実はそういう過去があるんじゃないかって、詮索してる奴もいたよ。」 「ひど。」 「良かったと思うけどね?」 「…。」 「おれはあの頃、なんでも却下されるし、自分なりにやってるのに、認めてもらえなくて、そうやってなんとなく過ごして、グチって、そういうもんなのかなって、思ってた。」 「え。」 「だけど、なんか目が覚めたっつーか。」 「?」 「認めてもらえないのが、今の自分の実力なんだ、って気づいたら悔しくてさ。」 「…。」 「その後に、一華の店先での話聞いて…。 ぶっちゃけ、販売員なんて、ヘラヘラして遊び半分に商品売って、ふざけてんのに給料もらって楽だよなって思ってた。」 「えー…。」 「だけど、違ったって知ったら、情けないとか申し訳ないとか、いろんな気持ちになったよ。」 「…。」 「だから、売り場の人の意見や思いも、できるだけ届けたいって思ってんの。 で、ニコニコしてんのに、ヘラヘラしてる!なんて、また一華に胸ぐら掴まれたら怖いから?」 そう言って、ニヤリと笑ってビールを飲んでいる。
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