第11章

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「案外いい奴だったんだね?」 「案外って余計だから。」 「…ありがと。」 「なんで?」 「…胸ぐら掴ませてくれて?」 「ぷ。あはは、なんだよ、それ。」 ビールをぐいっと飲む。 毎日にこにこしているからって、ツラいことがないわけじゃない。 だけど、自分はこんなにツラいと主張しても、ツラさが減るわけでもない。 なにも言わないけど、なにか思っているのは、誰しもがしていることだけど、必要以上にそのことに怯える必要もないと思える。 必要なことは、伝える権利はみんな自由に持っている。 使うか、使わないか。 あとは、いつ使うのかは、本人の自由だから。 「今が平和なら、それが一番いいってちょっと思ってた。」 「そんの、当たり前だろ?」 「当たり前なんだけど、当たり前じゃないっていうか。」 「ん?」 「平和で幸せなのは、もちろんいいことなんだけど、最近はちょっと進みたいとも思うようになったかな。」 「それはそれで、いいんじゃねぇの?」 「ただ、怖いね。」 「ああ。」 「今がいい!って満足していれば、きっとそれ以下にはならない。 というか、現状をキープすることに専念できるけど。」 「まぁな。」 「もう少し上を、前を…って求めた瞬間から、現状をキープすることと、進むための労力というか、努力も必要になるじゃない?」 「そうだな。」 「そこが、不安だったの。」 「ああ。」 「自分は頑張れるのかなーとか、もしダメでももう現状のところにも戻れなくて、今以下になるのが嫌っていうか…。」 「失敗したって、前には進んでるだろ?」 「へ?」 「失敗したって、後退することはないと思う。」 「…。」 「成長、とまでは言えなくたって、失敗からもたくさん得るものあるだろ。」 心に固くかけていたガードを、ひとつ外された気持ちになった。
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