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「案外いい奴だったんだね?」
「案外って余計だから。」
「…ありがと。」
「なんで?」
「…胸ぐら掴ませてくれて?」
「ぷ。あはは、なんだよ、それ。」
ビールをぐいっと飲む。
毎日にこにこしているからって、ツラいことがないわけじゃない。
だけど、自分はこんなにツラいと主張しても、ツラさが減るわけでもない。
なにも言わないけど、なにか思っているのは、誰しもがしていることだけど、必要以上にそのことに怯える必要もないと思える。
必要なことは、伝える権利はみんな自由に持っている。
使うか、使わないか。
あとは、いつ使うのかは、本人の自由だから。
「今が平和なら、それが一番いいってちょっと思ってた。」
「そんの、当たり前だろ?」
「当たり前なんだけど、当たり前じゃないっていうか。」
「ん?」
「平和で幸せなのは、もちろんいいことなんだけど、最近はちょっと進みたいとも思うようになったかな。」
「それはそれで、いいんじゃねぇの?」
「ただ、怖いね。」
「ああ。」
「今がいい!って満足していれば、きっとそれ以下にはならない。
というか、現状をキープすることに専念できるけど。」
「まぁな。」
「もう少し上を、前を…って求めた瞬間から、現状をキープすることと、進むための労力というか、努力も必要になるじゃない?」
「そうだな。」
「そこが、不安だったの。」
「ああ。」
「自分は頑張れるのかなーとか、もしダメでももう現状のところにも戻れなくて、今以下になるのが嫌っていうか…。」
「失敗したって、前には進んでるだろ?」
「へ?」
「失敗したって、後退することはないと思う。」
「…。」
「成長、とまでは言えなくたって、失敗からもたくさん得るものあるだろ。」
心に固くかけていたガードを、ひとつ外された気持ちになった。
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