第11章

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「失敗したから、その経験も全部ゴミだって捨てるやつもいるだろうけど。 失敗って時点で、失敗っていう経験も得てんだろ?」 小宮がニヤリと笑って、次は日本酒をお願いしたいんですが…と、大将に話しかけている。 胸の辺りの、服をぎゅっと掴んでしまう。 小宮と話していると、引き戻される。 わからないけど、ひたすらもがいていた頃の自分に…。 その時が良くて、今がダメとは思わない。 だけど…。 いつから忘れていた? 少しだけ、焦る。 昔よりも出来ることは増えた。 もちろんそれは経験を積んだから。 それなのに、自信を持つどころか、自信はどんどん無くなってしまった。 もっと、もっとと上を目指していたはず、いや上ってどこだろう? 今はどこをさ迷っているのかな。 「ただいまー!」 ガラガラと戸が開いて、聞きたかった声が響く。 いつどこにいてても、きっとこの声は私を「ここ」へ連れ戻してくれるのかもしれない。 「おかえりー。」 そう声をかけながら、無性に抱きつきたい衝動に駆られる。 実際にそんなことは、ここじゃなくて家だとしても、できるわけないんだけれど。 カズマはニコニコしながら近づいてきて、ふと小宮に気づいてペコリと頭を下げた。 「いらっしゃいませ。」 「お邪魔してます。」 小宮も答える。 「着替えてくるね。」 カズマは視線をこちらに向けて、そう言うと、そっと私の頭に手を乗せた。 スルリと撫でて、微笑みを残しつつ、奥へ行ってしまった。 何気ない行動だってことは、十分すぎるくらい知っている。 …知っているはずなのに。 火がついたように、顔が熱い。 「え、なに? 付き合いたてとか、そういう感じなわけ?」 若干引き気味に、小宮に問われる。 そのせいで、さらに動揺する。 バレたくないと思うほどに、頭から足の先まで熱くなってきた。
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