第11章

14/50

514人が本棚に入れています
本棚に追加
/670ページ
「ち、違うけど!」 「へー、ふーん。」 聞いたクセに、特に興味は無さそうに、日本酒を口に運んでいる。 火照りを冷ましたくて、ビールをぐいっと飲む。 …アルコールのせいで、冷めるどころか更に火照ってしまうけれど。 「個人の自由なのはわかってるけど、ミユキみたいに一華も妊娠して退職ってのは、今は避けて欲しいとか思うかも。」 「へっ!??」 思わぬ発言に、焦ってグラスを勢いよく置いてしまった。 テーブルが、ガンっと振動で少し揺れて、イスをガタンと動かしてしまった。 「ハナさん、危ない。」 ちょうど後ろを通りかかった翔太が、笑いながら肩に手を添える。 「あ、セクハラとか受けとるなよ。 めんどくさいから。」 「な、なに言ってんの!??」 「え、あ、そう。 ふーん、了解。」 「は!?え!? 今のでなにを了解してんの!?」 肩を思いきり押してみるけれど、はいはいと受け流す気らしい。 とはいえ、掘り下げたって、気まずいのは私なのだけれど。 「ちょっと意外。」 「な、なにが!?」 小宮がなにを悟ったのかは、予測がつかなくもない。 けれど、予測したくないし、そもそも悟られたくなんてないんだけど! この拷問、いったいなんなの!? 「人って見かけによらないんだなぁって、実感してんの。」 「そ、そうだね!」 話を終わらせたくて、適当に相づちを打っていると、 「ハナちゃん、ビールおかわりいる?」 エプロンをつけたカズマが、奥から戻ってきた。 会話が聞こえているはずはないけれど、もし万が一聞こえていたらと思うだけで、恥ずかしさで逃げたくなる。 「い、いる。」 残り少なくなっていたビールを、ぐいっと飲んでカズマにグラスを渡す。 そっと、指先が触れた。 触れたところから、私の記憶が流れ込んでしまいそうで、慌てて手を引く。
/670ページ

最初のコメントを投稿しよう!

514人が本棚に入れています
本棚に追加