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「ち、違うけど!」
「へー、ふーん。」
聞いたクセに、特に興味は無さそうに、日本酒を口に運んでいる。
火照りを冷ましたくて、ビールをぐいっと飲む。
…アルコールのせいで、冷めるどころか更に火照ってしまうけれど。
「個人の自由なのはわかってるけど、ミユキみたいに一華も妊娠して退職ってのは、今は避けて欲しいとか思うかも。」
「へっ!??」
思わぬ発言に、焦ってグラスを勢いよく置いてしまった。
テーブルが、ガンっと振動で少し揺れて、イスをガタンと動かしてしまった。
「ハナさん、危ない。」
ちょうど後ろを通りかかった翔太が、笑いながら肩に手を添える。
「あ、セクハラとか受けとるなよ。
めんどくさいから。」
「な、なに言ってんの!??」
「え、あ、そう。
ふーん、了解。」
「は!?え!?
今のでなにを了解してんの!?」
肩を思いきり押してみるけれど、はいはいと受け流す気らしい。
とはいえ、掘り下げたって、気まずいのは私なのだけれど。
「ちょっと意外。」
「な、なにが!?」
小宮がなにを悟ったのかは、予測がつかなくもない。
けれど、予測したくないし、そもそも悟られたくなんてないんだけど!
この拷問、いったいなんなの!?
「人って見かけによらないんだなぁって、実感してんの。」
「そ、そうだね!」
話を終わらせたくて、適当に相づちを打っていると、
「ハナちゃん、ビールおかわりいる?」
エプロンをつけたカズマが、奥から戻ってきた。
会話が聞こえているはずはないけれど、もし万が一聞こえていたらと思うだけで、恥ずかしさで逃げたくなる。
「い、いる。」
残り少なくなっていたビールを、ぐいっと飲んでカズマにグラスを渡す。
そっと、指先が触れた。
触れたところから、私の記憶が流れ込んでしまいそうで、慌てて手を引く。
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