第11章

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素直で気持ち悪い、とか言われるのかと思った。 だけど、小宮はなにも言わずにお酒を口に運んだ。 友達でいられたら。 私も思ったことだから。 違うとは言えない。 それだって、変わらないでと願うもののひとつだから。 どれだけ強く願っても、手に入らないものもある。 手に入ったとしても、すり抜けるようになくなってしまうものもある。 欲張りになりすぎて、そういう時にどうしたらいいのか、わからなくなってしまった。 想いが届かなかった切なさは、どう受け止めればいいのだろう。 時間は想いを少しずつ、薄くしてくれることもあるけれど、無くしたり消したりはしてくれない。 薄くなったと思っていても、不意に何気ない瞬間に、また色濃く思い出してしまう。 まるで、ほんの昨日まで想っていたように…。 「あのさ、聞いてないのか?」 「ん?」 「…ほんっと、そういうところも。」 私に向けているようで、違う。 これはミユキに向けている言葉だ。 「え?なに?」 「…おれちゃんとフラれてるからな?」 「???」 「しかも、3回。」 「…!!!」 声にならずに、思わず立ち上がってしまった。 また後ろを通りかかっていた翔太が、 「ハナさん、なにしてんの。」 そういって笑いながら、私の背中に手を当てて奥へ歩いていく。 「ハナちゃん、ビール待ちきれなかった?」 ビールのグラスを持ったカズマが戻ってきた。 「う、うん! 待ちきれなくて、取りに行こうかと思った!」 カタコトの下手なセリフのようにそう答えて、ロボットのようにぎこちなくグラスを受け取って、イスに腰をおろす。 「まさかと思ったことは、何度もあったけど。 聞いてるのかと思ってた。」 「し、知らないよ!」 「じゃ、言わなきゃよかった。」 そう言いながら、やっと吐き出せたという表情に見えるのは、気のせいだろうか。
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