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だって、カズマのことが大切だから、ウソをついて悲しませるようなことをしたくない。
「!!!」
一瞬で顔が熱くなる。
「わかった?」
小宮は涼しい顔でチラリとこっちを見ると、小鉢を選んでいる。
「わかったような…。」
「わかんねぇの?」
はああっとため息を吐き出した。
「お前が迷わず彼氏のこと好きなら、誰も変な誤解なんてしねぇんだよ。」
「!!」
「中途半端に、誤解されるかもとか変な小細工してるから、事実じゃないことが広まったり、後ろめたく見えたり、疑われたりするんだろ。」
「…。」
「しっかりしろよ、ばか。」
小宮の言葉が胸に刺さる。
「っつか、実際ミユキだって、誰にも誤解されてなかっただろ?」
「…。」
「一華、フラフラすんな。
思うようにまっすぐ進めばいいだろ。」
「…。」
「みんな味方してくれてるんだろ?
なににビビってんだよ。」
「…。」
「店の子たちだって、後輩とはいえしっかり大人なんだから、信頼してみろよ?」
「…うん。」
「好きなら好きだって、堂々としてろよ。」
ギュッとグラスをにぎりしめて、ゴクゴクとビールを飲み干す。
小宮の無駄によく通る声は、さっきと違ってすごく抑えて話しているから、店の中のざわめきに紛れて、私にしか聞こえていないと思う。
翔太はあちらへ、こちらへ忙しく動き回っていて、カズマは奥で調理をしているのだろう。
聞こえていないことに、ホッとする私はズルいのかもしれない。
「小宮。」
「あ?」
不機嫌そうに見えるのが、通常の顔だってことは、ムカつくくらいに知っている。
「見てろよ!!」
乱暴だけれど、そう言いたかった。
「おう。
しっかり見ててやるよ。」
口の端をあげて笑っている。
「…だから、」
「ん?」
「小宮も幸せになりなさいよ!!」
その一言だけが、店に響き渡ってしまった。
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