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メイク落としを探しに、洗面所へ向かおうとして、台所の食卓にはいろいろな書類が広げられていることに気づく。
「勉強?」
コンクールは終わったといっても、またあるのかもしれない。
「うん。いろいろ調べたいことがあったから。」
「そうなんだ。」
「ハナちゃんも、また髪整えにおいでよ?」
「仕事が落ち着いたら行こうかなぁ。」
「うん。
家でやってあげてもいいんだけど、いろいろそろってるから、店のほうがいいかなって。」
「あはは、人気の美容師さんに、家で無償でカットしてもらおうなんて思ってないよ!」
「また、そう言う…。」
「…手、触ってもいい?」
カズマは少し驚いた様子で、でもそっとペンを置くとゆっくり手を差し出した。
「指、細いよね。」
何気なく言ったけれど、触れたとたんに緊張してきた。
「ハナちゃんの指のほうが細いよ。」
「それは、男女の違いでしょ?
働いてる手って感じ。」
「そう?」
「うん。」
ありがとう、って手を離そうとしたところで、ぐいっと引き寄せられた。
「!?」
私は立っているけれど、カズマは座っているせいで、カズマの頭を胸に抱えることになっている。
「…ふふふ。」
「?」
「つむじが見える。」
「うん。」
「立ってたら絶対に見えないよね。」
「そりゃあ。」
オレのほうが背が高いからね、なんてつけ加えている。
「カズマが小さくなったみたいで、かわいい。」
「…。」
腰に回された手に力がこもり、ぎゅうっと抱きしめられる。
反射的に、優しく頭を包みこむ。
そうしていると、どうしてだろう。
守ってあげたい、そう思うのは、母性本能なんてやつのせいなのだろうか。
「手だけじゃなくて、全身全部、心もハナちゃんのものだよ?」
「えええ?」
驚いて、身体を離すけれど、離してくれない。
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