第11章

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「翔太、ちょっと焦ってる?」 「んー、そう見える?」 「多少。」 「そっかぁ。 焦ってなくはないかも。」 今日の翔太は歯切れが悪い。 「なんかあった?」 翔太にビールを勧めながら、カズマがお通しにと持ってきた枝豆をつまむ。 「俺、ずっと魚屋やると思ってて、それが当たり前だと思ってたから。」 「うん。」 「もし、弟のどっちかが、魚屋やりたいってなったら、俺どうするのかなって考えたんだ。」 「一緒にやるっていうのは?」 「始めはそれでもいいかもしれないけど、結婚して家族が増えてってなったら、生活きびしいかなぁって。」 「…そっか。」 「始めは、さ。 俺しかいない!やらなきゃ!って思ってたけど、弟が大きくなってきたら、俺じゃなくても大丈夫なのかもしれない。って。」 「…。」 「むしろ、俺じゃないほうがいいのかも、とか。 ちょっとネガティブになってるかも。」 苦く、笑った。 「って、ここもカズマの場所であって、俺の場所ではないんだけど。 ほら、父親って存在に甘えたいとか思ったときには、自分が父親代わりにならなきゃって無理したから。」 「…。」 「大将に父親って感覚持っちゃって、ちょっと甘えてる。」 「…それは、いいんじゃないの?」 「そうかなぁ。」 「大将も、うれしいんじゃないかなぁ。」 翔太に頼られて、甘えられて、大将が喜ばないはずがないように思う。 きっと、もっと早くにそうして欲しいとすら、思っていたんじゃないかな。 「翔太が悩むのってさ、」 「うん。」 「悩める余裕ができたってことでもあるんじゃないかなぁ?」 「悩める余裕…。」 口の中で、小さく反芻した。 「ほら、必死で夢中な時って、悩む余裕すらないじゃない?」 「…。」 「今をどうにかすることで、精いっぱいなの。」
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