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「翔太、ちょっと焦ってる?」
「んー、そう見える?」
「多少。」
「そっかぁ。
焦ってなくはないかも。」
今日の翔太は歯切れが悪い。
「なんかあった?」
翔太にビールを勧めながら、カズマがお通しにと持ってきた枝豆をつまむ。
「俺、ずっと魚屋やると思ってて、それが当たり前だと思ってたから。」
「うん。」
「もし、弟のどっちかが、魚屋やりたいってなったら、俺どうするのかなって考えたんだ。」
「一緒にやるっていうのは?」
「始めはそれでもいいかもしれないけど、結婚して家族が増えてってなったら、生活きびしいかなぁって。」
「…そっか。」
「始めは、さ。
俺しかいない!やらなきゃ!って思ってたけど、弟が大きくなってきたら、俺じゃなくても大丈夫なのかもしれない。って。」
「…。」
「むしろ、俺じゃないほうがいいのかも、とか。
ちょっとネガティブになってるかも。」
苦く、笑った。
「って、ここもカズマの場所であって、俺の場所ではないんだけど。
ほら、父親って存在に甘えたいとか思ったときには、自分が父親代わりにならなきゃって無理したから。」
「…。」
「大将に父親って感覚持っちゃって、ちょっと甘えてる。」
「…それは、いいんじゃないの?」
「そうかなぁ。」
「大将も、うれしいんじゃないかなぁ。」
翔太に頼られて、甘えられて、大将が喜ばないはずがないように思う。
きっと、もっと早くにそうして欲しいとすら、思っていたんじゃないかな。
「翔太が悩むのってさ、」
「うん。」
「悩める余裕ができたってことでもあるんじゃないかなぁ?」
「悩める余裕…。」
口の中で、小さく反芻した。
「ほら、必死で夢中な時って、悩む余裕すらないじゃない?」
「…。」
「今をどうにかすることで、精いっぱいなの。」
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