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考えないようにしていることを、引きずり出さないで欲しい。
心を揺らしたくない。
追ったら、そのまま置いていかれそうで…。
こわい。
「仕事に決まってるでしょ!」
「そうだね。」
「カズマこそ、彼女作らないの?」
「今は早く一人前になりたいから。」
「そうなんだ。
…そろそろ帰るね。」
「送るよ。」
「いらないよ。
通りまだ明るいから。」
「でも。」
カズマを無視して、会計を済ませて店を出る。
「ハナちゃん!」
上着を羽織りながら、慌てて追いかけてきた。
「ん?」
「買い出しあるから、そこまで一緒に行く。」
「そうなの?」
並んで歩く。
年下なんて言っても、カズマの方が背はずっと高い。
それにさっき話していたように、商店街は知り合いだらけらしくて、最近は私まで声をかけてもらうようになった。
「まだ寒いね~。
早く温かくならないかなぁ。」
「ハナちゃん、寒いの嫌い?」
「うん。
カズマは?」
「嫌いじゃないよ。」
「そっか。」
いつもニコニコしていて、カズマには嫌いなものなんてないのかもしれない。
「スーパーあっちでしょ!
私こっちだから。」
別れ道に差し掛かったときに、そう言うとカズマはなにか言おうと口を開くけれど、遠慮なく遮る。
「気を付けてね。
またね。」
ヒラヒラっと手を降って、背を向ける。
「は、ハナちゃん、また明日!」
後ろから声が聞こえた。
振り返らずに、片手を上げた。
カズマも翔太も優しくて、つい甘えたくなるけれど、そんなことをしてしまったら、心地いい今の関係を壊してしまう。
甘えすぎないように、近づきすぎて迷惑をかけないように、すごくすごく気をつけなきゃ。
カズマも翔太も好きだけど、恋愛ではなくて、弟がいたらこんな感じなのかなぁ…。
なんて、そんな感覚だ。
家について、鍵を開ける。
暗い部屋に、ため息を吐き出した。
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