第1章

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3階建てのアパートの、2階に住んでいる。 部屋は1DKで、一人で暮らすには充分だ。 玄関を入ってすぐにキッチンがあって、その奥の部屋にベッドを置いている。 可愛くて揃えた家具は、少し色あせてきているけれど、買い換えるのもためらうのは、結婚への期待があるからかもしれない。 彼…ケイトくんと出会ったのは、友だちの結婚式だった。 友だちの旦那さんの職場の関係で出席していたらしく、式の後に会場で声をかけられた。 友だち数名と二次会に出掛け、連絡先を交換して、二人で会うことが増えた。 一緒にいると楽しいし、優しい気遣いをしてくれるのも嬉しかった。 仕事の後や休みの日には、待ち合わせをして映画やショッピングや食事をしたり、休みを合わせて旅行へ出掛けたり。 …だけど、3年も経つせいか最近は仕事の後に食事に行けば良い方で、うちに来てご飯を食べて寝てしまう。 ケイトくんは実家に住んでいるから、家には行ったことがない。 仕事も忙しいみたいで、わがままは言いたくないけれど…寂しい。 そんな生活をしていると、話が出来る存在は貴重なもので、カズマや翔太と話せるのは楽しいひとときかもしれない。 シャワーを浴びて、テレビを眺めながら眠りにつく。 ~♪ 着信音で目が覚める。 「もしもし?」 通話ボタンを押して、眠い目をこすりながら時計を見ると、深夜2時。 『あ、一華? 今から行ってもいい?』 「ん、いいよ。」 『じゃ、後で。』 「はーい。」 通話を終えて、重い身体を起こす。 最近はこんな風に連絡が来ることが多い。 会えるのは嬉しいけれど、寝不足がツラい。 夜中とはいえ、とりあえず顔を洗う。 髪の毛を整えて、パジャマから部屋着に着替える。 温かいものでも飲むかもしれないと、ヤカンを火にかけた。 ーピンポン ドアスコープで確認して、鍵を開ける。 オートロックのマンションにも憧れたけど、現実は現実だ。
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