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そう願って泣いた娘の歪には、ケシの華が咲き乱れ、クチナシの華からは精液が滴る。指で息をする私達に残された道は、羽根をもぎ取り夢にうつつを抜かす事だ。 堕落して、堕落して、あの天使の樣に生きて居たい。誰も声などあげず、腹の中で憎しみが、愛が欲しくて懇願するさ。雨が、雨が、雨が、私と彼女の上に…血が、血が、血が、私と彼女の性交を…誰も居ない。人間は腐るだけで、何も残せない。私は虫になった。八本の足で木の根をかぎわけ、あたかもそこに昔愛した女が埋ってでも居る樣なフリをする。人間は腐敗した!虫になることさえ出来ずに廃れた時代の中に埋もれてしまった。 彼女が云ふには、人間なんて居なかったのだと…血が、血が、血が、血が…憎しみなんて…人間にはなりとう無いと私が言ったら、彼女は万華鏡の樣な眼を輝かせ   「私は貴方に愛されたかった」   と泣き出した。私は彼女の華を毟りとり、そこに巣くって居る小さな卵達を舌に絡ませた…薄黄色の卵からは、緑色した畸形児が、胎動の波に深海を探して居た。 もし…もし、此が女の味だとしたら、世界はこんなに美しい雨など私達の上に降せる筈等無いので在ろうに…綺麗過ぎた、憎しみは紅い。私は自分がまだ何も知らぬ子供であった事を罅割れた太陽の下に…白日の元に晒けだされた。私は頬を赤らめ彼女を見上げると、彼女の万華鏡の樣な眼には、醜い生き物が何億も蠢いて居た。彼女は全て知っている!此の私の稚拙な下心さえ見透かして嘲笑して居るのだ! 私は彼女の首に噛み付いた。彼女は快感の呻きを上げ、また小さなケシの華を咲かせた。彼女は何を忘れようとして居るのだ…私を私を私を私を私を私を忘れようとして居るの乎?私は彼女の首を食いちぎった。彼女の首は宙を漂いながら私を諭した。   「忘れられるのは、人間だけで十分よね?」   彼女は聖母だった…彼女の胸に飛び込みたかったが、既にケシの華は枯れてしまって居る。私は泣きながら彼女の華に顔を埋めた。すると彼女の華からは、甘い蜜が滴り墜ちた。堕落して、堕落して、願ったんだ。私は彼女を愛していたのに。 堕落して、堕落して、此の侭永遠さえ…   ねえ、私の病気は何処より? 私の病気はお前だ殺す
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