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打ち損じた弾丸はまだ喉元にある。
僕は咳払いをコホンとひとつしたあと、右足を5センチだけ前へ出して、声を出すために空気を肺に吸い込んだ。
「…なんで？」想定していたより小さな声だった。でも、もう後戻りはできない。
「なんで？どうして僕が」女は相変わらず黙ったままだ。
紅いルージュの端が少しだけ動いたのが見えた。
笑った、のかもしれない。
ルージュの端。
雨。
窓の外では、ずっと雨が降っている。
雨音は"ザーザー"とか"しとしと"とか色んな擬音があるが、実際の雨音と比べると、どれもしっくりとこない。あるいは集中して聴けば正しい擬音が見つかるのかもしれない。
僕は耳を澄ましてみた。
どうやら、雨音は一種類ではなく"ぱたぱた"とか"ぴちょん"とか色んな音が混じりあっているようだった。そうか。雨が落ちたところが道路か車かそれ以外かにもよるし、僕がいる場所からの距離が変われば、音の響きも変わってくる。そもそも擬音ひとつで雨を表現すること自体が無理な話だったのだ。それでも、いちばん聴こえてくる音は"タタタタ"のような気がするが、そんな擬音は今まで聞いたことがない。
「ねぇ」僕は言った。「"タタタタ"って聴こえない？」
「何の話？」
「雨だよ！雨の音"タタタタ"っていうのがいちばん聴こえない？」
女はゆっくり首を横に振った。
「わからないよ」目に涙を浮かべていた。
「リョウ、あなたは私に何の話をしているの？」
涙。雨。
タタタタ。
僕は鼻の頭が当たるくらい窓のそばにぴったりくっついて立ち、雨がアスファルトや車のボンネットに落ちる様子を注意深く観察した。雨の細長い線が地面に当たると、一瞬だけ波紋が見えて、すぐに他の雨とごちゃ混ぜになった。それは雨自身にとってどんな意味を持つのだろうか。
僕と雨の距離。
意味。
そうだ。家の中と外でも雨音の響きが変わるだろう。
隔たりのない場所で聴く声が、最も真実に近いはずだ。
「ねぇ？」
僕は泣きやんだ彼女に言う。
「散歩に行こう」
女は僕を5秒見たあとで、ルージュをまた、少しだけ動かして
「いいよ」と答えた。「着替えてくるね。外けっこう寒いから」
声色。
言葉。
「ありがとう」
僕は言う。「手を繋いでいこう」
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