第1章

10/14
前へ
/14ページ
次へ
 学生アルバイトの仕事は、主に記録用の遺跡の地図を作ることである。定規で遺跡の断面を端から端まで測り、それをマス目用紙に、鉛筆で記入する。測る者と書く者で二人一組になり行うことになる。実際にスコップを持って土を掘ることはしないので、発掘物を手にすることもない。恐らく福田のゼミ生や学部の生徒はそのあたりもわかってくれそうだが、他学部の、好奇心だけで申し込んできた学生たちがどれだけ続くのか心配であった。  夕方事務所の設営が終わり、七生と誠人はそろって帰路についた。  横浜市内に住んでいるという誠人が乗換駅に着く前に、七生は誠人に渡す書類を仮設事務所に置いてきてしまったことに気が付いた。 「と、取りに戻ります」 「えっ、いや、いいよ! なら俺が行くから」 「そんなご面倒をかけるわけにはいきません」 「今から取りに行ったら帰るの遅くなっちゃうし、鍵を持ってるの俺だけだし、申し訳ないけどまだこの鍵一つしかないから、もし無くした時に白鳥さんの責任になっちゃう」 「でも、書類がないと困りますよね?」  それなりの量がある書類のチェックを、誠人は週末のうちに片付けるつもりだと言っていた。  二人は顔を見合わせて、そして電車は乗換駅に着いてしまった。  慌てて二人はとりあえず電車を降りた。 「僕が今から取りに行っても、お渡しするのにどこかで待っててもらわないといけないです。でも……」  誠人は七生がこんなにも申し訳なさそうな顔をするのが不思議で仕方なかった。別に彼を待っているくらいは何でもないが、それよりもいいことを思いついた。 *  車はすぐに高速道路に乗り、スピードを上げて走る。  七生を迎えに来た時に開けていた屋根は、すぐに閉めた。風が冷たくて、とても開けては走れない。ここに来る直前にカッコつけて開けたのだと、誠人は笑いながら言った。 「すごい車持ってるんですね」  七生はお世辞でもなく、かといって嫌味にならないように言った。 「ごめんね、付き合わせて。自慢したかったわけじゃないんだ。普段都内に通勤してるとこんな車では走れないんだけど、年代物の車だからときどきは走らせてあげないといけなくて。月に一回くらい、こうやってドライブしてるんだ。今回はそのついで。今日は時間大丈夫? 事務所に寄って、そのあと、そうだな、箱根でも行こうよ」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加