第1章

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 七生は車に詳しいわけではないが、確かに運転席やハンドルの周りは少しレトロな感じがする。 「いつも一人だから、誰かと走ると楽しいな。あ、安全運転するから安心して」 「彼女はいないんですか?」 「はは」誠人は笑った。 「いないよ。でも彼女がいても、一人で走ったかも。こうやって走りながら、いろんなことを考えるのが好きなんだ」  七生は、彼の一人の時間を邪魔してしまったという罪悪感を持てばいいのか、それともそんな大切な時間に同席させてもらえるほど気を許されているのだ、と喜べばいいのか、決めあぐねた。  オーディオ設備はあるが、誠人はラジオも音楽をかけないようだった。沈黙が続くと少し気まずくなった。 「こういうレトロな車が好きなんですか?」  七生が訊ねると、誠人はあっさりとそれを否定した。  そしてしばらく黙った。 「高校生のときに、親父が死んで」  おもむろに話したあとに、七生の様子を見た。重い身の上話などしたら妙な雰囲気になるかと思ったが、七生はきょとんとしていた。 「母親は、高校生の息子がいるくらいだからもうけっこうな年だったんだけど、おばさんのなかでは綺麗なおばさんだったみたいで、再婚相手になりたいっておじさんがけっこう現れてね」  誠人の母親が、美しい女性だというのは七生にも容易に想像がついた。 「はじめのうちは母も再婚なんて考えてなかったみたいだけど、俺と、あとまだ小学生の弟を育てるのにやっぱり限界を感じたみたいで、何年か経ってからどこからか探してきた金持ちの男と付き合うようになって結婚したんだ。俺は大学院を卒業して就職した年で、弟は大学に入る年だったかな。俺も弟も、都内で就職と進学したんだけど、やっぱりなんとなく母親と知らないおじさんの住む家に住むのが嫌で、二人とも家を出たんだけど……ははっ」  誠人がいきなり笑い出したので、七生はぎょっとして彼を見た。 「いや、ごめん。自分で言いながら、なんか童話みたいだなあって思って。義理の父にね、家を出るときに彼の財産を少しもらったんだ。俺は、この車を。弟は、カモの雛をもらったんだよ」 「カモ、ですか?」「うん」  車は高速道路を下りた。高速のインターから発掘現場はすぐ近くで、七生は無事に書類を確保し、用事はすぐに終わった。  再び車に乗り込み、二人はまた西へ向かった。
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