第1章

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「ええ、でも、寂しがってますよ」 「俺も寂しい」  七生は自分に言われたようで動揺した。 「伝えておきます」 「あんたは」 「はい」 「変わりないか」 「もちろんです」  意外なほど間髪入れず、そして力強く答えてしまった。あの時確かめ合った気持ちから変わっていないか、と訊ねられた気がしたのだ。 「あなたは」 「楽しんでる」 「それは何よりです」  七生は自分にも会えなくて寂しいと言ってほしかった気もした。 「今からまた授業だから」 「あ、そうなんですね。いってらっしゃい」 「ああ。また連絡する」  そう言って通話は切れた。七生がいる場所はもう真っ暗で、車を通る音もアパートのどこかで人が話す声もほとんど聞こえない。彼がいま遠くにいて、そこはまだ昼過ぎくらいであることを不思議に思った。心なしか体温が上がったままベッドに入ったら、何故か全く眠れなかった。雅人が今が日中だと言っていたことにつられて、自分も昼間のような気分になったのかと思ったが、ただ興奮しているだけだということに気が付いた。少し話しただけなのに、こんなに嬉しいことが不思議で仕方なかった。   次の日、遺跡を発掘する調査会社の担当者とはじめて顔を合わせた。  福田准教授と一緒に応接室で待っていると、待ち合わせの正確な時間に相手はやってきた。 「先生、お久しぶりです!」  扉を開けて福田准教授を見て、顔を輝かせたのは七生よりも少し年上のスマートな男性だった。何年か前に福田准教授の研究室を卒業し、現在は発掘調査会社で働いているその青年は、グレーのスーツをそつなく着こなし、はつらつとした表情で福田准教授の手を握っている。 「突然連絡して迷惑じゃなかったかな」 「とんでもない。先生と仕事ができる日が来るなんて、夢みたいです」 「私は何もしないよ」 「え?」 「連絡はすべて彼に任せるから」  と紹介されたのが七生だった。慌てて名刺を差し出すと、彼も苦笑いしながら名刺を出す。 「朝雛と言います。よろしくお願いいたします」 「白鳥です。こちらこそよろしくお願いします」  出された名刺には朝雛誠人と書かれている。 「先生、また気に入った人に迷惑押し付けてますね」  そう言って七生を見て微笑んだ。 「どうかな」准教授はとぼけている。 「早速ですけど、近いうちに現場を見に行きましょう。あと近隣の調査資料もあたっておきたいな。先生の資料室にありますよね?」
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