第1章

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「あったかな」 「ありますよ。昔は何日も徹夜でこもりましたから、そこで見たのを覚えています。懐かしいな」 「今は徹夜は無理だぞ」 「どうしてですか?」 「セキュリティが厳しくなってな。夜中には防犯システムが作動する」 「へえ! そんな機能がついたんだ。じゃあ今の学生さんは大変ですね。昼間起きて学校にこないといけないんだ」 「一時期おまえの存在が都市伝説になってたな。夜しか見ないから、幽霊なんじゃないかって」 「それで、先生が幽霊に興味持って新たな扉が開いたからいいじゃないですか」  久しぶりに会ったという話だが、二人の会話は息が合っている。 「資料室の主が戻ってきたら、喜ぶだろうな。資料室の赤いセーターのおじさん」 「懐かしい!」誠人が腹を抱えて笑った。 「俺が研究室にいたころ、たまたま霊感の強い学生が研究室に何人かいて、そいつらが揃って、資料室で赤いセーターを着ている外国人のようなおじさんを見たって言うんですよ。外見の特徴が一致するから、まあそういう人がいるんだろうなあと思ってたんだけど。まだいるのかなあ」 「朝雛さんは……見たことがあるんですか?」  七生が恐る恐る聞いたが、誠人はにっこり笑って答えなかった。  福田准教授は、自分は何もしないと言った割にその後七生を連れて現場を見に行ったり(今のところは何もない広場だった)、誠人と頻繁に打ち合わせ(という名の飲み)をしたり、気やすい雰囲気を作ってくれたおかげで七生も苦労せず話が進んでいく。いつの間にか准教授の現在の研究室やゼミの学生がアルバイトとして発掘調査に協力することになり、面白がった学生がずいぶん集まっているようだ。やる気のある学生アルバイトはコストが抑えられることがメリットではあるが、あまりに人数が増えて七生は彼らとの連絡や契約に追われることにもなった。後から後からアルバイトの申し込みが増え、最初は福田准教授のゼミを取っている学生だけに声をかけたはずなのにいつの間にか他学部の学生まで申し込みが来ている。そして女性ばかりが増えると思っていたら朝雛誠人が原因のようだった。
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