第1章

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 一度、誠人が福田准教授の授業に顔を出し、簡単な助手のようなことをしたらしい。そこでずいぶんハンサムな男がいたということが噂になり、発掘調査に参加すれば彼に会えると話題が飛んだようだった。それを聞いて七生は真っ青になって福田准教授の研究室に行くと、誠人が一人でのんびりとお湯が湧くのを待っている。 「あれ、白鳥さん、どうしたの?」 「福田准教授は……」 「今お昼に出てますよ」 「そうですか。では出直します」  誠人にも言いたいことがあったが、まずは福田に話したほうがいいだろう。 「そろそろ戻ってくるんじゃないかな? 今お湯が湧いたから、コーヒーでも飲んで待ってたら?」 「そう……ですね。あ、自分で淹れます」 「構いませんよ」  そう言って、手際よくインスタントコーヒーを用意する。 「あの、こちらこそ福田さんがお待たせしてすみません」  あまりに息が合っているので、福田と誠人の方がチームのように見えるが、実際は誠人は取引先の相手であり、こちらが発注側だ。向こうの方がプロだとしてもあまり勝手に色々していただくのは良くない。まして、授業の手伝いなどを無料でしてもらっては困る。 「……もしかして、俺が学校に来すぎだっていう話? そうだったらごめん、自分でもでしゃばってるなって思うんだけど、福田先生の役に立てると思うと嬉しくて」 「いえ、とんでもないです。お金も出せないのに、本来の仕事とは違うことをやっていただいて……」 「俺は全然構わないんだけど、白鳥さんの立場ではそうもいかないよね」 「朝雛さんもお忙しいのに」 「これからはバレないようにやります」  七生は一瞬固まって、答えに窮した。それこそ、そうしてくださいとも、それは困りますとも言えない。困っている七生を見て、誠人は笑った。 「ごめんなさい。からかって」 「いえ……」  悪い人ではないけれど、あまり自由にやられると困る。 「あ……そうだ、昨日の夕食代お支払いします」  七生が慌てて財布を出した。昨日、打ち合わせ後に七生と誠人と福田で飲んだ。福田が誕生日が近いからと盛り上がって、三件はしごするのに付き合ったら、七生は迷わず帰るのに精一杯になってしまい会計のことを把握していない。 「構いませんよ。俺に出させて。福田先生の誕生日だし」 「それならなおさら、僕が奢ってもらうわけには」
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