階級

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 テレビもラジオもつけず、窓から入る西日だけを浴びて二人は静かに時間が訪れるのを待っていた。  時計の針の音だけで、静かに不気味に部屋の中に聞こえていた。  しばしの沈黙の中、針の音とは別の音が聞こえてきた。外からだ。外から軽快な音楽が流れてきた。  真っ先に反応したのは信夫であった。彼はタバコをケースに戻すと、テーブルに起きっぱなしにしていたトンカチを手にすると、窓に駆け寄った。レースのカーテンと窓を開け表を見る。  大通りを軽快な音楽に合わせて進むサーカスの一団のような人達がパレードをしているところだった。 「来たぞ!」  信夫は興奮した声で台所にいる楓に伝える。夫の知らせに楓は満面の笑みを浮かべた。よほど、嬉しいのか研いだばかりの包丁を手に表に出た。信夫も遅れまいと表に出る。  大通りに出ると歩道に軒を連ねる民家から次々と人が出ていた。全員、この時を待っていた。興奮が冷めない様子で鼻息を荒く、それどれ色々な道具を手にしていた。楓と同じように刃物を持っていたり、鈍器を持ってたり、中にはこの日の為に購入した拳銃を持っている若者までいた。普段なら銃刀法で所持することすら許されないが、今日だけは特別に所持することは認められていた。 「おやおや。今回は出刃包丁とトンカチですか」 と、二人に声をかけてきたのは隣に住んでいる中年の男性。彼は二人が持っていた包丁とトンカチを面白そうに見ていた。そう言う、彼自身も手には趣味の日曜大工で使っているノコギリがある。  信夫は隣の男性が持っているノギリを見て不思議に思う。 「何故、日曜大工のノコギリなのですか?ホームセンターにいけば、もっと切れ味のいいノコギリや電動も売ってるではないですか」 「いやいや。日曜大工だからいいのですよ。すぐ切れるような刃物では面白味に欠けるではありませんか。すぐには切れない刃物でじっくりと、切る。それが醍醐味ですよ」  隣の男性にはサド気があった。彼の言うことにも一理あるが、信夫も楓もそこまで悪趣味はかった。それでも、「確かに面白そうですね」と、彼を尊重する言葉を口にする。
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