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信夫と隣の男性が会話を交わしている間にパレードはどんどん、先に進んでいった。そのパレードを追いかけるように皆ついていく。もちろん、信夫も楓も隣の男性もだ。
軽快な音楽を奏でていたパレードもよいよ、大詰めらしく音楽は軽快なものから一挙に盛大な音楽に変わる。パレードの中央には檻のような車があり、それが先行して運ばれるようになった。やがて、檻車は閉鎖された中央交差点の真ん中で駐まり、音楽はやんだ。
全員が静まりかえって、ジッと檻車を見ていた。そこへ、政府の役人と追われる人物が、まるでこのサーカスの団長であるかの振る舞いで檻の前にマイクを片手に立った。
「皆様、大変長らくお待たせしました。この地域を巡回するのは半年ぶりになりますでしょうか。その間、多くのストレスを溜められたことでしょう。我々としましては、そのような環境下におかれる皆様の・・・」
役人は長々と話をしていた。さっさと檻を開ければいいのにと、誰もが思う。これも、演出だと分かっていても。苛立ちを最高潮まで高めた状態にもっていく為にわざと、このように長々しい話をしてくる。
やがて、観衆の中から声が上がる。
「長ったらしい話はいい!さっさと、開けろ!」
「「開けろ!」」「「開けろ!」」
誰かが一度でも「開けろ」といえば、後はなし崩しに人々の間で「開けろ」のコールが聞こえるようになる。これ以上、待たせたら暴動になるかもしれない。そんな瀬戸際を見極め、役人は言う。
「・・・どうやら、皆様も待ちきれないようですね。では、本日も思う存分、イジメ倒してください」
役人はそう言って、機械仕掛けになっている檻の扉を開けた。
開けたが、何も出てこない。ここからは演出ではない。
「なにをグズグズしているのですか。さっさと出てきなさい」
役人は優しく声をかけるも、檻から出てくる者はいなかった。役人は手元のボタンを押した。すると、全てが機械仕掛けになっている檻が動きだし、中に入っている者を全員、外に追い出したではないか。
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