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頬を赤らめて言い募る野原の頭をわしゃわしゃと撫でてかき混ぜる武はとてもうれしそうなのだが、野原からすればからかわれているようにしか見えないだろう。武が何か言うと必死に食らいつく野原の図は、端から見ていると何とも気恥ずかしい。慎は秘かに当代人気の新聞小説を真似ていると思った程だ。名付けて『青い山脈ごっこ』。青春していていいではないか。
しかし、ふたりはお互いを良い仲ではないと言い合う。いちゃついているようにしか見えないのにだ。野原は真剣に抗弁するのでその気はないのかもしれないが、憎からず思っているに違いない。
まあ、好きにするといいさ、と慎は生温かく見守っていた。
「さっちゃん、君はひとつ間違った認識を持っている。慎君と僕はね、仲良くなんかないんだよ」
「そうだね」
慎も肯定した。
「一緒にいるとバカで面白いからつるんでるだけ」
ちょっと待て。
慎は眉間に皺を寄せた。
「ま。つるむなんて。意味深ね」
ふふふ、と野原は意地悪く笑う。
「やっぱり武君と尾上君、別の意味で良い間柄なのね」
「え」
慎と武は異口同音に声を上げた。
「止めてくれよ、さっちゃん」
「あら、皆さんいろいろおっしゃっていてよ」
「皆さん、って誰が。いろいろ、って何が。教えておくれよ」
「知りません」
ツン、と野原はそっぽを向いた。
後で『つるむ』の意味を辞書で確認しておこうと慎は思った。
プン、と唇を尖らせた彼女へ、「ふぐみたいな顔してると、それが板についちゃうよ」と武はケラケラ笑って言う。
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