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思えば、元いた世界では見事なまで非モテ男子に属しており、クラスの女子とさえあまり話したことのなかった自分が冗談とはいえこんな美人に体をくっつけられるなんて凄いことだ。自分と同じ部類に入る男子はもちろん、クラスのイケメン連中だって、今の自分を見たらさぞかし羨ましがるに違いない。
そんなことを考えていると、ふと視界の隅にふらふらと体を揺らしながら近づいてくる男の姿が見えた。
かなり酔っているらしく、その足取りはいつ転んでもおかしくないほど危なっかしい。
酒場に行けば、こういう醜態を晒している人間は決して珍しくない。同じような人間を見慣れたソウタには、次に男がどんな挙動を見せるのかなんとなく予想がついた。
次の瞬間、予想通り男の体がぐらりと揺れてその場に沈み込んだ。
ソウタたち三人の中で一番最初に反応したのはルミナだった。咄嗟に酔っ払いの男に向かって駆け出し、なんとかその体が床に倒れ込む前に支えることに成功する。とても13歳の少女とは思えないその機敏な動作は、ルミナがそれなり以上の身体能力を持つ冒険者であること雄弁に物語っていた。
「おじさん、大丈夫ですか?」
心配そうに訊ねながら、ルミナは男を立たせてやった。
男は返事がないばかりか、目の焦点も定まっておらず、自分が目の前の少女に支え起こしてもらったことさえ理解できていないように見える。ここまで深く酔っていては、いつまた転んでもおかしくはない。
案の定、男はまたすぐに転んだ。咄嗟に何かを掴もうと伸ばしたその腕で、ルミナの頭のフードをめくり上げながら。
「け、怪我はないですか!?」
ついさっきよりも切羽詰まった声で訊ねるルミナに対して、男はまたもや何も答えなかった。
男は地面に尻もちをついたまま、ある一点を凝視していた。
男の視線の先にあったのはルミナの額……ではなく、そこに生えた二本の小さな角。
それは誰が見ても一目で分かる、ルミナがどういう存在であるかを示す証だった。
真っ赤だった男の顔が、みるみる蒼白になっていく。
それから数秒の沈黙の後、男は酒場全体に聞こえる大きな声で叫んでいた。
「こ、こいつ雑種(バスタード)だ! 雑種がここにいるぞー!!」
男のその叫び声で、和やかで楽しげだった酒場の雰囲気が一変した。
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